プレゼンテーション「ドコモ「アハモ」月2700円に値下げ」

株式会社NTTドコモ / 技術

ドコモ「アハモ」月2700円に値下げ

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2700円に値下げをした「ahamo」の戦略 “サービスの簡略化”による混乱も?

 ドコモが発表したオンライン専用料金プランの「ahamo」に対抗する形で、KDDIは「povo」、ソフトバンクは「LINEMO」も立ち上げた。いずれの新料金プラン、新ブランドも、サービスは3月に開始される。ahamoやLINEMOが20年12月、povoが1月に発表され、サービスインまで時間が空いていたこともあり、導入前から競争が加熱。条件変更や料金変更が相次ぐ、異例の事態になっている。

 そんな中、ドコモは3月1日に、ahamoの料金を2700円(税別、以下同)に値下げすることを発表した。値下げ幅は280円と少額だが、総額表示が義務化される4月以降、3000円を下回る2970円でアピールできるのは大きな差になりそうだ。合わせて、dカードやdカードGOLDでデータ容量が増える特典も発表した。対するソフトバンクは、LINEMOの通話定額オプションを1年間500円引きにするキャンペーンを導入。サービス開始前の前哨戦が続いている。ここでは、その経緯を振り返りつつ、ahamoの料金改定の狙いや課題を読み解いていきたい。

サービス開始前に相次ぐ料金改定、その経緯を振り返る

 オンライン専用20GBプランの変遷を、時系列で見ていくと以下のようになる。まず、20年12月にドコモがahamoを発表した。データ容量は20GBで2980円。ここで、20GBプランの水準が打ち立てられた。これに対し、ソフトバンクは、即座にのちにLINEMOと命名される「SoftBank on LINE」を発表して対抗。LINEを使って契約でき、eSIMに対応するといった差別化は図っていたものの、料金自体はahamoと同じで、5分間の通話定額もついていた。

 KDDIが追随していれば、料金は3社で横並びになるところだったが、同社は差別化競争を仕掛けてきた。povoでは、5分間の通話定額を「トッピング」と名付けたオプションにすることで、ベースの料金として他社より500円安い2480円を打ち出した。通話定額のトッピング化は、単なる値下げ以上に、他社の料金を“抱き合わせ”に見せてしまう効果があった。

 実際に、ユーザーからも通話定額はオプション化してほしいという声が上がっていたことを受け、ソフトバンクはLINEMOのサービス名発表に合わせ、料金を2月に改定。料金はpovoと同じ2480円にして、通話定額はオプションにした。2社が通話定額を外して、ユーザーの選択に委ねた中、ドコモがこの動きに追随するかどうかが注目を集めていた。

 ところが、ドコモは「追加料金の心配がなく、安心して生活を送れる一助になる」(営業本部長 鳥塚滋人氏)として、ahamoの通話定額を維持。代わりに、料金そのものを280円下げた2700円に改定し、他社との差別化を図った。これでも料金そのものは、5分の通話定額を外せるpovoやLINEMOの方が安いが、条件をそろえ、5分の通話定額を付けた場合はahamoが最安になる。

 ahamoの値下げに対抗する形で、ソフトバンクは3月4日にLINEMOのキャンペーンを発表。キャンペーンは通話定額が12カ月間、500円値引きになるというもので、期間限定ながら、5分間の通話定額は無料になる。1年間は5分間の通話定額を付けても付けなくても、ahamoより安い金額になるというわけだ。KDDIは対抗策を発表していないが、3月のサービス開始を間もなくに控え、ようやく全貌が固まってきた格好だ。

総額表示対応と他社対抗でahamoを値下げ、dカードとの連携も強化

 ahamoが料金を改定した狙いは、大きく2つある。1つが総額表示への対応、もう1つが他社対抗だ。鳥塚氏は、「2700円に改定したことにより、税込みでも2970円になり、3000円を切る価格になる」と語った。他社は5分間の通話定額がなく、条件は異なるものの、料金を改定していなければ、4月以降、ドコモだけが3000円を超えているように見えかねない状況だった。

 また、他社が通話定額をオプションにしたことで、「ドコモのahamoは高いのではないかというご心配をいただいた」(同)という。通話定額を外せば、他社と同額にはできるが、「20代の約9割が何らかの形で音声通話をご利用になっている」(同)。この状況を踏まえると、都度、30秒20円の追加料金がかかるより、通話定額が含んだワンプランになっている方がシンプルに見えるのも事実だ。280円値下げしても、通話定額分のARPUが上がることになるのもドコモにとってのメリットだ。

 値下げした分、収益性は低くなる恐れはある一方で、「他社をご利用の方にドコモに来ていただく、あるいはドコモの方にそのままドコモを使い続けていただけることを狙っているが、その効果を最大限発揮していくことで、この金額は吸収できる」(同)。流出防止と他社からの獲得が増えれば、カバーできる範囲だという。

 dカードとの連携も強化し、金融・クレジットカード事業とのシナジー効果を出していく構えだ。ahamo契約者がdカード会員になった場合、9月からデータ容量が1GB追加される。dカードGOLDの場合、増量されるデータ容量は5GB。ベースの20GBと合わせて、計25GBまで利用可能になる。ahamoは、20GBを超過した場合、データ容量の追加に1GBあたり500円かかる。dカードは年会費無料のため、審査にさえ通れば誰でも1GBが無料で手に入るというわけだ。

 ahamoには、ギガホやギガライトにある「dカードお支払割」が適用されない上に、料金自体が下がってしまうため、dカードGOLDでもdポイントはたまりにくくなる。一方で、金融・クレジットカード事業は、ドコモにとって非通信分野の柱の1つ。ahamoのユーザーをdカード、dカードGOLDの獲得につなげていきたいのは自然な流れだ。オンライン専用プランのため、ショップでの獲得ができないのは向かい風だが、その分、データ容量の追加で料金プランとの直接的な連携を強化したといえる。

 他社を出し抜く形で発表したahamoだが、そのインパクトは大きく、事前エントリーは2月28日時点で160万を突破している。「自社内の(プラン変更の)比率は高いが、他社の方もたくさんエントリーしている」(同)という。エントリーしたユーザーの中で実際に契約する割合がどの程度になるのかは未知数だが、「(ahamoのサービスが開始される)26日には、お客さまの申し込みが殺到することが予想される」(マーケティング部長 川崎博子氏)。4月15日以降に申し込むと、特典のdポイントが3000ポイント増える混雑緩和策も導入したほどだ。料金値下げで、この勢いに拍車が掛かる可能性もある。

既存のサービスとは大きく違うオンライン専用プラン、開始当初は混乱も?

 一方で、ahamoはドコモにとって初めてのオンライン専用プランになり、サービス内容も既存の料金プランから大幅に簡略化されているため、混乱も予想される。コンテンツの決済は、その1つだ。鳥塚氏によると、「従来のspモード決済には対応している」というが、コンテンツ決済サービスには非対応になるため、ドコモの既存プランから移行すると、月額課金登録されているサービスは自動で解約になってしまう。

 鳥塚氏は「コンテンツプロバイダーと連携を取りながら、事前に支払いの手段を変えていただくアナウンスを進めている」というのが、間違って解約してしまうユーザーが出てきてしまう恐れはある。また、Apple Watchのセルラーモデルを利用するためのワンナンバーサービスや、イマドコサーチの解約などは、事前に行っておく必要があるという。留守番電話サービスや転送でんわサービス、メロディコールといった、ネットワークサービスが利用できない点にも、注意が必要だ。

 特に気を付けたいのが、故障や紛失で端末が使えなくなってしまったときの対応だ。ahamoでの修理対応は、「オンライン修理受付サービス」に一本化される。ケータイ補償サービスは対象になるものの、故障、紛失の際に、ショップに駆け込んですぐに代替機を用意してもらうといったことはできない。ネットにアクセスできる端末がスマートフォンしかないと、その時点で手の打ちようがなくなってしまう。また紛失の場合、SIMカードの再発行が必要になる。ahamoにはeSIMが未導入のため、数日間通信ができないケースも考えられる。

 こうした点が十分周知されているかといえば、答えはノーだ。発表当初、キャリアメールがないことはトレードオフとして大々的に告知されたが、それ以外のサービスに関する情報は小出しになっている。機種変更の手続きも6月までできないなど、導入を急いだしわ寄せが来ている印象を受ける。これは、povoやLINMOも同じだ。オンライン専用の20GBプランは、MVNOのように、割り切るところを割り切ってコストダウンしたサービスだが、実態がユーザーに伝わり切っていないところには、一抹の不安を覚える。