プレゼンテーション「飲食業における新型コロナウイルス対策に関する合同記者説明会」

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飲食業における新型コロナウイルス対策に関する合同記者説明会

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サントリーなどフェイスシールド開発、その裏に世界最高峰のスパコンが活躍?

世界一スパコンの計算力が社会生活に役立つ
 理化学研究所(理研)のスーパーコンピュータ「富岳」による、新型コロナウイルス飛沫感染シミュレーションの研究成果をもとに、サントリー酒類と凸版印刷が、飲食に特化したフェイスシールドの開発に乗り出した。

 理研では、2021年度の共用開始を目指して、富岳を開発、整備中だが、その段階において、文部科学省と連携して、新型コロナウイルス対策に貢献する研究開発に対し、富岳の一部計算資源を供出。複数の実施課題に取り組んでいるところだ。

 その実施課題のひとつが、「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」であり、咳をしたときや発話したとき、歌唱をしたときなどの飛沫やエアロゾルなどの状況を、マスクなし、マスク着用、フェイスシールド着用、マウスガード着用などのケースでシミュレーション。さらに、オフィスや教室、飲食店、コンサートホールなどのいくつかの場面を想定して、飛沫やエアロゾルの影響をシミュレーションしたり、湿度の変化がどう影響するのかといったことについても検証している。

飲食店で効果的なフェイスプレートの形状は”おわん型”
 そうした取り組みのなかで、理研では、飲食店を想定した4人掛けテーブルに着席し、1分程度会話をした場合に、どのような形状のマウスカバーをすることが有効であるのかを検証。「口元のみをカバー」、「口元と鼻をカバー」、「顎から鼻までをカバー」、「顎から鼻までおわん型でカバー」の4種類の形状のなかで、感染リスク対策として最も効果があったのが「おわん型」であることがわかったという。

 理化学研究所 計算科学研究センター複雑現象統一的解法研究チームリーダー/神戸大学 システム情報学研究科教授の坪倉誠氏によると、「口元のみをカバーする形状の場合、約30%の飛沫がマウスガードに付着し、約70%が空気中に放出され、周りへの感染リスクが高い。だが、顎から鼻までおわん型でカバーする形状では、約70%の飛沫がマウスガードに付着し、空気中には約30%しか放出されなかった」という。

 「顎から鼻までおわん型でカバーする形状では、大きな飛沫が抑えられるのに加えて、小さな飛沫が漏れ出る量が抑えられる。また、横を向いて隣の席の人に話をしても、直接飛沫がかかることがなく、飛沫到達数が少なくなる。エアロゾルも、おわん型が一番少ない」とした。

飲食店に特化したフェイスシールド
 このシミュレーション結果をもとにして開発したのが、サントリー酒類と凸版印刷が共同で開発した「飲食に特化したフェイスシールド」である。

 サントリー酒類の山田賢治社長は、「コロナ禍において、厳しい状況にある飲食店を応援したいと考え、飲食の場に適した感染対策のひとつとして取り組んだのが、飲食時に相応しいフェイスシールドの開発である」とする。

 ちなみに、理研では、「この結果は、マウスガードの装着のみで、飲食時の安全性を保障するものではない。飲食店では、漏れ出たエアロゾルに対する十分な換気対策や、接触感染へ各種対策を併用する必要がある。それにより、マウスガードが感染リスクの低減に貢献できる」としている。

飲食文化を守りたい
 サントリー酒類は、「山崎」や「響」といったウイスキーに代表されるスピリッツ、「プレミアムモルツ」や「金麦」といったビールなどの国内販売を行っている。

 サントリー酒類の山田社長は、「日本の外食は世界に冠たる日本の文化である。日本人ならではの『おもてなしの心』を感じることができ、大切な人と語りあい、みんなと笑いあえる場所でもある」と前置きし、「サントリーは、飲食店とともに、新しい飲酒文化を創造してきた。1950年代には日本全国にトリスバーが生まれ、日本の洋酒文化を切り開く原動力となり、2008年には、角ハイボールでウイスキー市場の復活につながった。1963年に参入したビール事業では飲用時品質にこだわり、それがいまのプレミアムモルツにつながっている。サントリーは、飲食店に育ててもらったブランドである」と語る。

 その上で、「新型コロナウイルスの影響により、飲食店は厳しい状況にある。とくに、パブ、レストラン、居酒屋など酒主体の飲食店への影響が大きい。。日本が世界に誇る外食の文化を守りたい。そこにサントリーはなにができるのかを考えた」とする。

 同社では、食事代の先払いによって、お気に入りの飲食店を支援することができる「さきめし」や、来店した顧客に「ありがとう」を伝えることを目的に、松岡修造さんをイメージキャラクターに起用した「食べて、飲んで、元気を」キャンペーンなどを展開。コロナ禍において飲食店を応援する取り組みを進めてきた。今回のフェイスシールドの開発もその延長線上にある取り組みだ。

 「外食のすばらしさや価値を認識してもらいたいいまだからこそ、最高に美味しい状態で飲料を提供する活動に力を入れている。久しぶりに飲食店を訪れた顧客が、『やっぱり店で飲むビールやハイボールはおいしい』と言ってもらえることがうれしい」と、山田社長語る。

ストレスなく、見た目にも優れ、そして安全性も
 一方、凸版印刷は、サントリー酒類とともに、ノベルティや販促ツールを一緒に開発、提供してきた経緯がある。社内には、企画、開発、製造といったモノづくり部門を持ち、新型コロナウイルス対策として、ソーシャルディスタンスを啓発するフロアステッカーシートや、低コストで簡単に導入できる紙製の消毒液ボトルスタンド、オフィスや店舗で利用できるパーティションなどを製品化している。

 両社が「飲食時に相応しいフェイスシールド」の開発においてこだわったのは、ストレスなく装着や使用ができる「簡便さ」、飲食時の使用に最適化した「飲食のしやすさ」、楽しい飲食の場を実現するために「表情が見える」ことに加えて、飲食の場に相応しい「見た目」、来店客や従業員が使用、管理しやすい「運用面」の5つの点だ。

 だが、安全面に対する科学的検証ができないという課題があった。

 「ここに、富岳を活用した新型コロナウイルスに関する研究と科学的検証を用い、感染リスクを軽減するためのデザインを実現した」という。

 理研でも、研究成果の実効性を検証する機会を探しており、両社の思惑が一致したという。

 ちなみに、富岳には、Society 5.0実現への貢献が政策的目標としても盛り込まれており、産学官連携の取り組みを通じて、富岳を活用した科学的知見をもとに、企業が実効性ある現実の対策を実施する協働を行うことになっている。今回の取り組みは、その一環だ。

見た目の違和感を減らすための工夫
 サントリー酒類と凸版印刷が発表した「飲食時に相応しいフェイスシールド」のプロトタイプは、メガネタイプのフレームを採用し、誰でも直感的に、簡単に着脱ができるデザインとなっている。

 鼻と口を守るシールド部分が横に開閉でき、飲食の際に、これを開け、会話をするときには閉じるという仕組みだ。

 フレームやシールドには透明な素材を採用し、フレームパーツも極力削減することで、「お互いの表情を見やすくし、見た目の違和感を極力排除した」という。

 また、目の部分まで覆う構造としたことで、飛んできた飛沫を防御できること、直接顔を触りにくい構造になるため、手についた飛沫による接触感染のリスクを下げられるメリットもあるという。

 ちなみに、メガネをかけている人も、フェイスシールドはそのまま装着できるが、不要な場合には、目の部分を取り外すことができる。

 「口の部分のシールドを上に持ち上げたり、下げたりということも検討したが、実際に飲食しながら使ってみると、横に開閉するのが、一番邪魔にならない」と、このデザインとなった理由を示す。

 サントリー酒類では、居酒屋や接待型店舗をはじめとする各種業態に分布する形で、8店舗において試験導入とアセスメント調査を実施。現場の声を反映して、デザインに改良を加える予定だという。

富岳のシミュレーション結果を社会に生かす
 今回の取り組みで特筆できるのが、完成した設計情報をオープンデータ化し、無償で、誰でもが使えるようにするという点だ。

 理化学研究所 計算科学研究センターの松岡聡センター長は、「オープンデータにすることで、早期の普及を目指すこと、さらなる改善が進むことを期待している。より優れた形状、より優れた使い方が実現できる」とし、「飲食店だけでなく、スポーツ観戦や劇場でも役立つ可能性がある」と述べた。

 富岳のシミュレーション結果をもとに、感染リスクを低減する効果を持ったツールが、広く普及することに期待したい。