プレゼンテーション「楽天モバイル 5Gプラン発表」

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楽天モバイル 5Gプラン発表

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楽天モバイルの5Gは“超限定的” 3キャリアにどこまで対抗できるのか (1/3)

楽天モバイルが、9月30日に5Gのサービスを開始した。もともと同社は、本格参入直後の6月に5Gを商用化する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、海外のラボに立ち入りができなくなるなどして、サービス開始を延期していた。約3カ月スタートが遅れた格好だが、料金を据え置きにして「Tada(ただ)5G」を訴求する。サービスインに合わせ、自社ブランドの端末「Rakuten BIG」も用意した。

 一方で、他社と同様、やはりエリアには課題も多い。4Gの立ち上げと時期が近いだけに、加入者がスムーズに増えるのかは未知数だ。競合他社が4Gからの周波数転用も活用して一気にエリアを拡大しようとしているなか、楽天モバイルの5Gはスムーズに離陸できるのか。

料金据え置きの2980円、プランは「UN-LIMIT V」に一本化

 「分かりやすく言うと、4Gに加えて5Gがタダで使える」――楽天の代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、こう語りながら5G用の料金プラン「UN-LIMIT V」を発表した。4月に開始した「UN-LIMIT 2.0」は、月額2980円(税別、以下同)でデータ通信が無制限になるプラン。RCSの技術を使った「Rakuten Link」を利用すれば、通話料も無料になる。UN-LIMIT Vも、5Gが使えること以外、特徴は同じだ。300万人まで1年間料金が無料になるキャンペーンも継続する。新プランに変更すれば、5G対応端末で5Gの電波をキャッチできるというのが唯一の違いだ。

 既存の楽天モバイルユーザーは、Webから簡単な手続きを済ませるだけで、料金プランをUN-LIMIT 2.0からUN-LIMIT Vに切り替えることが可能だ。プラン変更には、手数料もかからない。新規ユーザーが加入できるプランも、UN-LIMIT Vに一本化される。料金は同じで、容量も無制限。単純に5Gが追加されるだけになるため、デメリットはない。「シンプルで分かりやすい、ワンプランを目指している」と語る三木谷氏の狙い通りに設計されたプランというわけだ。

 そのため、既存ユーザーが自主的に手続きしない場合でも、料金プランは自動でUN-LIMIT Vに切り替わる。楽天モバイルによると、10月12日から11月30日にかけ、段階的にプラン変更を実施していく予定だという。当然ながら5Gの利用には対応端末も必要になるため、単に契約が5Gになっただけでは電波をつかんで通信することはできないが、見かけ上の契約数は一気に増える格好になる。

 2980円を維持したため、他キャリアとの金額差はさらに広がった。三木谷氏は「他社と比べ71%程度安い料金になっている」と自信をのぞかせた。楽天モバイルが示した他社のプランには、音声定額プランが含まれていたため、それを除けば実際にはここまでの開きはないが、5G対応でデータ容量使い放題のプランとして安いことも事実だ。

 ドコモは「5Gギガホ」の料金が7650円。適用率が非常に高いみんなドコモ割を含めても、6650円の料金がかかる。KDDIの「データMAX 5G」は2年契約ありで8480円。同居家族のみと範囲は狭いが、4人契約で最大2020円の割引を受けられる。家族割引適用の状態で比べても、楽天モバイルの料金は他キャリアの半額以下。「携帯料金の値下げは、1つのナショナルムーブメント」(同)で、楽天モバイルはそれに回答した格好だ。

端末ラインアップは当初2機種、ミドルレンジモデルが不足か

 5Gのサービス開始に合わせ、対応端末も用意した。6.9型と大画面で、Sub-6とミリ波に両対応した「Rakuten BIG」がそれだ。発売済みのシャープ製スマートフォン「AQUOS R5G」も、同時のソフトウェアアップデートで5Gに対応した。これら2機種が楽天モバイルにとっての“ローンチモデル”になる。

 ハイエンドモデルで価格が10万円を超えるAQUOS R5Gに対し、Rakuten BIGはSnapdragon 765Gを採用したミドルレンジモデルで6万9800円とリーズナブルだ。楽天モバイルCTOのタレック・アミン氏は、自社ブランドの端末を開発した理由を、「コストを引き下げていくため」だと説明する。「ミリ波とSub-6の両方に対応し、カメラも非常にいい。これだけのスペックに対して、価格は安い」(同)というわけだ。

 Snapdragon 765Gを採用したおサイフケータイ対応モデルには、ソフトバンクの導入したOPPOの「Reno 3 5G」があり、価格帯も近い。一方でReno 3 5Gは、Sub-6のみでミリ波には非対応。ハイエンドモデルでもミリ波非対応の端末が多い中、ミドルレンジモデルのRakuten BIGがミリ波に対応したのは異例だ。アミン氏はRakuten BIGを「周波数利用効率もいい」と評していたが、Sub-6とミリ波を同時にスタートさせる同社の戦略に沿うためには、自社ブランドの端末を開発する必要があったことがうかがえる。

 ただし、現時点ではラインアップは2機種のみと少ない。本格サービスを開始してから1年もたたない楽天モバイルに、ラインアップの拡充を求めるのは酷かもしれないが、KDDIが「全機種5G」を打ち出した後なだけに、インパクトに欠けているのも事実だ。自社ブランド端末として、Rakuten BIGに加え、横幅がスリムな「Rakuten Hand」の投入も発表したが、こちらは4Gのみの対応。10月には、楽天モバイル以外の3社が5G対応のiPhoneを導入する想定であることを踏まえると、現状のラインアップは手薄といえる。

 Rakuten BIGの6万9800円は、確かにコストパフォーマンスが高い一方で、絶対額としてはまだまだボリュームゾーンの価格帯には届いていない。楽天モバイルの売れ筋端末が3万円前後のミドルレンジモデルに集中していることを踏まえると、KDDIが販売するXiaomiの「Mi 10 Lite 5G」のように、4万円前後の低価格な5Gスマートフォンの導入も必要になりそうだ。

サービス開始当初のエリアは超限定的、拡大の見通しも不透明

 それ以上に課題として大きいのは、5Gのエリアだ。サービス開始当初は、東京都、神奈川県、埼玉県、北海道、大阪府、兵庫県の6つの都道府県のみ。しかも北海道や神奈川県、兵庫県はエリアといっても1カ所のみで、最もエリアの広い東京都でも世田谷区の一部と板橋区の1カ所となっており、現時点でのエリアは極めて狭い。ドコモ、au、ソフトバンクともに5Gのサービス開始時はエリアがスポット的だったが、楽天エリアの狭さはそれをさらに下回る。

 楽天モバイルの代表取締役社長、山田善久氏によると、2021年3月までには全都道府県にエリアを拡大するという。ただ、より具体的な計画は明かされず、それ以降のロードマップも見えていない。全都道府県はエリアの目安の1つにはなるが、残りの1府40県に対して基地局を1つずつ置いていくだけで基準をクリアできてしまうため、基地局数を明確に打ち出している他社よりエリア拡大の見通しがしづらい。

 周波数割当時に総務省に提出した開設計画中の基盤展開率は、2024年末で56.1%。90%を超えるドコモやKDDIにはもちろん、64%を打ち出したソフトバンクよりも見劣りする。また、この基盤展開率は、あくまで新たに割り当てられた5G専用の周波数で実現するエリアで、8月の省令改正によって認められた4Gから5Gへの周波数転用分は含まれていない。4Gの周波数を多く割り当てられている他社は、一部の基地局を4Gと5Gに両対応させることで、エリアを一気に拡大する方針を打ち出している。

 KDDI、ソフトバンクともに、2022年3月末時点での5G基地局数は5万を予定。楽天モバイルが現時点で用意する4G用の基地局数すら大きく上回る数字になる。楽天モバイルも転用で対抗できるかというと、それも難しい。現状、割り当てられている4G用の周波数は1.7GHz帯のみで、帯域幅も20MHz幅と少ないからだ。たとえDSS(Dynamic Spectrum Sharing)を使ったとしても、4G用に十分な帯域幅がなくなってしまい、4G、5Gのどちらも十分な速度が出なくなる。転用するのであれば、新たな周波数を獲得するか、思い切って4Gの帯域幅を減らしてしまうしかないだろう。

 山田氏は「他社とそん色ない形でスタートできると思っている」と語っていたが、この冬から2021年いっぱいで、差が大きく広がってしまう恐れもある。発表会では、料金や端末、完全仮想化ネットワークの紹介に時間が割かれた一方で、5Gならではのコンテンツやサービスに対しての言及は少なく、山田氏も「5Gが普及していけば、いろいろな方とのコラボレーションで新しいサービスが生まれてくる」と述べるにとどまった。自動契約のため、5Gの契約者数だけは多くなりそうだが、当面の間、楽天モバイルの主戦場は4Gになりそうだ。