日刊工業新聞
トヨタ・いすゞ・日野自協業 商用車CASE対応新ステージ
トヨタ自動車といすゞ自動車は24日、相互に株式を取得し、資本提携すると発表した。トヨタは428億円を出資し、いすゞに対する出資比率は約5%になる。両社は2018年に資本提携を解消していたが、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)分野での協業に向け、再び資本提携で結びつきを強める。合わせて、トヨタの完全子会社である日野自動車を合わせた3社で新会社の設立を表明。従来の枠組みを超えた提携により、商用車のCASE対応は新たなステージに入った。
仲間づくり拡大 FCトラック開発加速
「自動車業界全体でカーボンニュートラル(脱炭素)に取り組むとき、商用車の世界に誰かが入り込まない限り解決に向かわない」―。同日会見したトヨタの豊田章男社長は、今回の資本提携、いすゞ・日野自との3社連合に行き着いた理由をこう説明した。トヨタの出資とともに、いすゞ側も同額規模のトヨタ株を取得する予定。CASE対応という長期的な課題と向き合うためには、同額出資による資本の結びつきが有効と判断した。トヨタはいすゞと日野自との連携を促進する触媒の役割も担い、長年のライバル同士の協業を後押しする。
トヨタは06年にいすゞに5・89%出資したが、18年に提携を解消した。一方、日野自はトヨタが50・14%を出資する子会社となっている。豊田社長は再びいすゞと資本関係を持つことについて「いすゞとの資本提携を解消した後にお互いの肩の荷が消え、モビリティー社会づくりの会話が進み出した」と説明。これに対し、いすゞの片山正則社長は「(提携解消後も)トヨタとは機会があればまた何かやりたいと考えていた」と返した。
トヨタはここ数年、CASE対応に向けた業務提携や少額出資による緩やかな提携関係を相次いで構築。乗用車メーカーでは完全子会社のダイハツ工業に加え、マツダやスズキ、SUBARU(スバル)と資本関係がある。CASE対応では技術開発のほか、膨大な開発費を単独で負担するのはトヨタとはいえ厳しい。「(CASEへの対応は)1社では何もできない」(豊田社長)との考えのもと、仲間づくりを拡大してきた。
いすゞとの提携で、燃料電池(FC)トラック向けのFCシステム供給や自動運転技術の高度化に不可欠な走行データの共有といったメリットがトヨタには期待できる。電動車や自動運転車両などの開発を日野自を含めた3社で推進。車両コストの低減を図るとともにエネルギーや通信インフラと連携した車両の社会実装に取り組み、次世代商用車の普及を加速させる考えだ。
「脱炭素」業界一丸で挑む “知恵”結集―課題を解決
商用車メーカーにとってカーボンニュートラル対応は喫緊の課題だ。一方、顧客となる物流事業者では人手不足などの問題に直面。商用車各社には顧客の事業環境に沿ったサービスの拡充が求められている。
今回の3社協業のテーマは「CASE技術」だ。カーボンニュートラルをめぐっては21年夏をめどに政府が商用車の電動化方針を示すとみられる。議論される30年代半ばの商用車の目標に対して、いすゞの片山社長は「これ(3社協業)を生かしてきたい」とする。
現状、「商用車の電動化は技術的に乗用車メーカーと比べて遅れている」(片山社長)。日野自の下義生社長は「2社(日野自といすゞ)だけでは足を踏み出せない所に、トヨタのCASE技術を使って貢献できる形にしたい」と力を込める。
トラックが活躍する物流現場では人手不足や労働環境の課題が横たわる。24年には改正労働基準法によりトラック運転手の時間外労働に対し、罰則付きの上限規制が始まる。高効率な物流輸送の実現には広範囲のデータ活用が欠かせない。
日野自は子会社のネクスト・ロジスティクス・ジャパン(NLJ、東京都新宿区)を設立して、荷主企業や物流事業者などを巻き込んだ取り組みを進めている。「現場を知れば知るほど、まだまだ全体としてやるべきことがある」(日野自の下社長)。データ連携を進め、トラックの積載率の引き上げを狙う。いすゞは2月、架装メーカーとコネクテッド技術の開発に乗り出した。
いすゞの片山社長は「CASEや顧客の産業大変革、例えばデジタル変革(DX)を乗り越える必要がある」と話す。3社で知恵を出し合いメーカー側だけでなく、顧客側の課題解決に意欲的に取り組む方針だ。
【会見要旨/豊田社長 電動車はインフラとセット】
―協業の狙いは。
豊田社長 CASE革命で状況が変わった。特に電動車はインフラとセットでなければ普及が難しい。メーカー目線ではなく、ユーザー目線でモノを考えるようになり協業の方向性が見えてきた。
下社長 運転手不足、輸送の効率化、カーボンニュートラルの実現など輸送を取り巻く環境は厳しい。こうした課題を解決するには個社を超えて協調する領域が大変多い。
―トヨタといすゞは18年に資本関係を解消している。
豊田社長 いすゞとは小型ディーゼルエンジンの開発プロジェクトを進めていたが別々の道を行くことになった。その後互いに肩の荷が消えた段階で、もっといいモビリティー社会づくりなどで会話が進んだ。自動車関連産業で働く550万人で動くというものの見方、カーボンニュートラルといった課題が浮上し、それぞれの強みを出し合いユーザー目線で考えようということで連携が始まった。
片山社長 お客は1社ではなく、日野自といすゞの両社の車両を使っている。日本の商用車の8割を占める両社が組むことで物流改革を支えやすくなると以前から思っていたがデータの活用でシステムの統一という大きな問題を抱えていた。日野自とはライバル関係にあり様子を見ることがあったがトヨタが接着効果となり、バックアップしてもらえることが今回の提携に大きな要素となった。
―新会社の役割は。
中嶋裕樹氏 トラックと例えばトヨタの乗用車のデータを組み合わせることで、大きなビッグデータをベースにお客さまの困りごとを解決するのが新会社の狙いになる。