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【ホンダ2021年でF1参戦終了】じつは影響すくない? これまではホンダ=F1の精神 徐々に変化
ホンダが2021年でF1参戦を終了することを明らかにしました。八郷社長は再参戦なしと言い切りました。F1のイメージが極めて強いホンダにとって、F1参戦終了は社内的に、また量産モデルにどう影響するのでしょうか?
ホンダ、フォーミュラ1をやめる理由
ホンダが2021年シーズンをもって、世界最高峰自動車レース・フォーミュラ1(F1)の世界から去る。
「参戦終了」としており、休止、中止、撤退ではない。
2020年10月2日午後5時からオンライン会議システムを使って日本人報道陣向けにホンダが行った記者会見で、ホンダの八郷隆弘社長は「再参戦はない」という説明をした。
参戦終了とは文字通り、終了であり、ホンダとして今後、F1の世界に戻る可能性は極めて低い。
F1参戦終了の理由として、最近業界内ですっかり聞き慣れた感がある「100年に一度の自動車産業大変革」を引き合いに出した。
その中でもパワートレインの電動化や、エネルギーマネージメント技術に対する研究開発に、ホンダが持つリソースを集中させたいからだという。
会見の中で、八郷社長は記者の質問に対して何度も「2050年におけるカーボンニュートラル」と「2050年までの過程で、2030年までにホンダ車全体の2/3を電動車にする」という表現を繰り返した。
ただし、会見中に図表やグラフを用いた説明は1つもなかった。
2030年まで、2050年まで、それぞれで何をどう進めるのかについて、F1で培ってきた技術を具体的にどう使うのかについて、詳しい説明はなし。
あくまでも「F1をやめること」が話題の中心であり、「F1をやめた後のホンダ」の先読みができないと感じた。
ホンダ、フォーミュラ1をやる理由
では、見方を変えよう。
ホンダがF1をやる(F1をやってきた)理由とはなにか?
近年、筆者はホンダの社内組織改編や新技術に関して、本社(本田技研工業)と研究所(本田技術研究所)の関係者への取材と意見交換をする機会が多い。
そうした中で、改めてホンダの原点や、ホンダという企業の有り様について深く考えてきた。
「技術はひとのために」。創業者・本田宗一郎氏の言葉だ。これが、ホンダの原点であることは広く知られている。
その技術の中心にあるのが、エンジンだ。
「ホンダはエンジンの会社だ」と表現する、ホンダ幹部が多い。四輪、二輪、そして汎用などのパワープロダクツを含めると、ホンダは世界最大級のエンジン供給企業なのだ。
この点が、トヨタや日産などと大きく違う発想だ。
このエンジン供給者という立ち位置が、F1との相性が良い。
ホンダF1史の中では、シャシー開発を行った時期もあるが、レース実績でみればエンジン供給に注力した期間での成績が良いのは明白だ。
こうしたF1におけるエンジン開発こそ、「走る実験室」という言い回しの本筋だと感じる。
F1には「走る広告塔」と表現される側面もあるが、ホンダは「走る実験室」を極めることが、結果的に企業イメージアップにつながってきたといえる。
フォーミュラ1やり抜いたという自信
もう1点は、人材育成だ。
二輪メーカーだったホンダが四輪事業を始めた頃、多くの若者はF1という世界を舞台に技術研究がしたいという熱意を持ってホンダ入社の面接を受けた。
80年代のセナ・プロスト時代、フジテレビを中心として日本全土に広がったF1ブームの中、ホンダに入ればF1も体験できる可能性があり自動車エンジニアとしての夢が広がる、という想いを抱いた若者も大勢いた。
これは一般論ではなく、筆者が過去40年間ほどの間に接してきた、ホンダ関係者の多くから実際の言葉として聞いた。
和光市や栃木での基礎研究、量産車開発などエンジニアリング部門だけではなく、国内営業、海外営業、購買、マーケティング、広報など、ホンダという企業の各部門で「F1をやっている会社で働いている誇り」が日々の業務に対する心の下支えになっているホンダ社員は大勢いる。
こうした中で、実際にF1開発に携わり、その後に量産車開発の部門に移動した人たちを直接話すと、皆が同じようなことを言う。
「F1をやり抜いたのだから、(その後は)何でもできるという気持ちになる」
その典型的な事例が、軽の大ヒット作「Nボックス」である。
ホンダF1は、エンジニアリングという直接的、また間接部門に対する波及効果を含めてホンダ社内に多大なる影響を及ぼしてきた。
ホンダ、F1やめても影響すくない?
では、ホンダがF1をやめることで、ホンダ車の売上げへの影響はどうなるか?
世界市場全体で見ると、短期的には影響は少ないだろう。
なぜならば、ホンダの利益のほぼ半分を担う北米市場において、F1の認知度はけっして高くなく、ブランドイメージ訴求でF1を多用してこなかったからだ。
一方、F1人気の高い欧州では、そもそもホンダのシェアは大きくない。
日本においても、近年のホンダ車のイメージは、Nボックスが主導し、フィットなど小型車のハイブリッド車需要や、フリード等の小型ミニバンが市場を支えている。
また、トップエンドのNSXは北米生産で日本販売台数は極めて少ない。
タイプRについても、モータースポーツのイメージが強いが、個別モデルとしてF1と直結する商品でもない。
つまり、F1をやめることで、量産計画に大幅な変更が加わることはない。
ただし、「モータースポーツはホンダのDNA」(八郷社長)であり、長年に渡る「F1のホンダ」という社内外でのホンダに対する企業イメージが、これからはホンダ史の1ページに留まることになる。
中長期的な視点で、ホンダがF1をやめることが、ホンダの販売にどう影響するのか?
そうした未来図を現時点で予想することは、極めて難しい。