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日産とDeNA、無人運転サービス「Easy Ride」を本格始動–両社トップが期待よせる
日産自動車とディー・エヌ・エー(DeNA)が2017年1月から開発を進めてきた、無人運転車両を活用した新たな交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」の実証実験が、3月5〜18日までの2週間、神奈川県横浜市のみなとみらい地区周辺で実施される。公式サイトから応募した一般モニター約300組が参加する。これに先駆けて、2月23日に合同記者発表会が開かれた。
Easy Rideは、好きな場所に自由に移動できる交通サービス。専用のモバイルアプリは、目的地の設定から配車、支払いまで対応しており、目的や気分に合わせて地元の店舗やおすすめの観光スポットに行ける。また、子どもの送り迎えや高齢者の移動、訪日外国人旅行者の観光など、既存の交通サービスを補完するものとして開発が進められている。今回の実証実験では、自動運転技術を搭載した実験車両に一般モニターを乗せ、日産グローバル本社から商業施設の横浜ワールドポーターズまでの合計4.5Kmのコースを往復運行する。
目的地は専用のモバイルアプリで設定するが、行きたい場所を直接指定する以外に、「ハンバーガーが食べたい」などやりたいことをテキストまたは音声で入力し、おすすめの候補地を表示させてその中から選択することも可能。乗車中には走行ルート周辺のおすすめスポットや最新のイベント情報など約500件の情報や、店舗などで使えるお得なクーポンが40件ほど車載タブレット端末に表示される。また、走行中の車両の位置や状態をリアルタイムで把握できる遠隔管制センターを設置。実証実験では、両社の先進技術を融合させたシステムによる遠隔管制のテストも行うという。
乗車後に実施する一般モニター向けアンケートでは、乗降時や乗車中の体験についての評価や、周辺店舗と連動したサービスの利用状況、実用化した場合の想定利用価格などについて情報を収集する。実証実験終了後は、無人運転環境でのサービスの検討や運行ルートの拡充、有人車両との混合交通下での最適な車両配備ロジックや乗降フローの確立、訪日外国人旅行者向けの多言語化対応などを進め、限定された環境でのサービスを経て、2020年代早期の本格的なサービス提供を目指すとしている。
発表会の冒頭で挨拶した、日産自動車代表取締役社長 兼 最高経営責任者の西川廣人氏は、「本日は新車や新技術の発表ではなく、技術革新の先にある新しいモビリティサービス、新事業領域にむけた大きなステップになるもの。弊社の中期計画では、大きな柱として車の電動化、知能化を掲げている。これらの技術革新は、我々が魅力ある車をお届けする本業に加えて、より多くの皆様に新しいモビリティサービスをご提供する事業進化につながるもの」と語る。
また、DeNAとの共同開発については、「われわれが自らの力で進めることに加えて、新たな事業領域ではそれぞれの分野で専門性をもったパートナーと効率的、効果的に協力して仕事を進めることが、将来競争力を確保していく上で大きなポイントになると繰り返し申し上げてきた。その意味でも、パートナーのDeNAと共同発表まできたことは、次のステップに向けた大きなポイントだ」と語った。
続いて、DeNA代表取締役社長 兼 CEOの守安功氏は、「日本社会における交通システムはさまざまな課題を抱えている。特に高齢化にともない移動が困難で、病院に行くことも難しい“交通弱者”が増え続けている。一方で、運輸業界を支える方々の人手不足も深刻だ。今後はこのような問題が都市部でも顕在化してくるだろう。われわれはこのような交通課題に正面から向き合い、これまで培ってきたインターネットやAIによって解決していきたい」と語る。
DeNAは2015年6月に自動運転の無人タクシー「ロボットタクシー」を発表したのを皮切りに、自動運転バスを利用した交通システム「Robot Shuttle(ロボットシャトル)」や、自動運転で荷物を届ける物流サービス開発プロジェクト「ロボネコヤマト」などを次々と発表してきた。
これまで培った同社の交通事業のノウハウと、日産の自動運転やコネクテッドカーなどの先進技術を融合させることで、新たな交通システムを作れると説明。「協業を始めてから1年ほどだが、中長期的に必ずよりよいサービスを提供できるパートナーシップになると確信している。Easy Rideはこれまでにない新たなサービスとして、世の中にインパクトを与えると思っている」と展望を語った。
続いて、日産自動車のアライアンス専務執行役員であるオギ・レドジク氏と、DeNA執行役員 オートモーティブ事業部長の中島宏氏が、Easy Rideの提供する価値について語った。
レドジク氏は、Easy Rideなどの無人モビリティサービスによって、都市部などの道路混雑を減らせるほか、移動中の時間を娯楽や仕事などより生産的な時間に変えることができると説明。また、交通事故は人間の判断ミスや注意不足などが原因で起きていることから、制御可能な自動運転によって事故軽減にも貢献できるとした。
DeNAの中島氏は、今回の実証実験の実施にあたり、地元住民の理解を得るための自治体との連携や、クーポン配信や乗降拠点確保のための店舗との連携、その地域ならではの交通事情を知り尽くした交通事業者との連携などが不可欠だったと強調する。特に交通事業者とは協力関係を強めており、神奈川県タクシー協会とは、双方の強みや役割分担などについての勉強会を開催していることを明らかにした。
無人運転が普及するとタクシー運転手の職が奪われてしまうのではないかと懸念する意見もあるが、「いろいろな交通事業者とディスカッションしているが、無人のモビリティサービスと各地のタクシー会社やバス会社が連携してくことについて、明確に反対されたことは全くない。それくらいドライバー不足が深刻な課題になっていることの現れだと思う」(中島氏)と話す。
また、政府との連携や規制緩和などについては、「政府の(さまざまな)実証実験に対する規制緩和の動きは世界の最先端をいっているので、現時点でのハードルはあまりない。将来については、(事故を起こした際の)責任をドライバーが取るのか、遠隔の監視センターのスタッフが取るのかといった話も出てくる。今は、本格的に変えるべき規制は何なのかをあぶり出している段階」と説明した。