プレゼンテーション「「セレナe-POWER」発表記者会見」

日産自動車株式会社 / 技術

「セレナe-POWER」発表記者会見

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東洋経済オンライン

日産「セレナ e-POWER」が背負った重大使命

「最強のミニバンにe-POWERを搭載することで、ミニバンの価値観をも変えるものと確信している」

3月1日、日産自動車は主力のミニバン「セレナ」に、ガソリンエンジンで発電しモーターで駆動する「e-POWER」を追加して発売した。国内事業担当の星野朝子専務執行役員は、2月28日の記者発表会で、販売への自信をみなぎらせた。セレナ全体の月間販売目標台数を従来比1000台増の8000台に据え、購入客の4割がe-POWERを選択すると見込む。

「e-POWER」はコンパクト車「ノート」に搭載され、日産の国内販売を牽引するまでに成長した虎の子の技術。売れ筋のセレナもそのラインナップに加えることで、完成車の無資格検査問題で傷付いたブランドの失地回復への第一歩となるか、注目が集まる。

星野専務が見せた自信の背景には、セレナとe-POWERの確固たる実績がある。セレナは2016年8月に自動運転技術「プロパイロット」を引っ提げて刷新して以降、販売は好調に推移する。今年1月の国内登録車販売台数では4位。ミニバン部門ではトヨタ自動車の「ヴォクシー」を抑えてトップにランクインし、日産の看板車種だ。

セレナの発売から3カ月後に投入されたのがノートe-POWERだ。電動車特有のスムーズで力強い加速や、アクセルペダル一つで加減速の操作ができる利便性が消費者に受け入れられ、昨年の国内コンパクト車販売で1位を獲得。日産幹部でさえ「ここまで売れるとは思っていなかった」と驚くほどで、日産のコンパクト車1位獲得は1998年の「キューブ」以来、19年ぶりにもなる快挙だった。

セレナe-POWERが投入されるミッドサイズ・ミニバン市場は国内市場でも最激戦区だ。その中でも人気があるセレナだが、これまでライバルに引けを取っていたのは燃費だ。日産は「S-ハイブリッド」という名称でマイルドハイブリッドシステムを持つ。現行のガソリンタイプのセレナにも搭載されている。このシステムは、発進時やアイドリングストップでの再始動時に、モーターをエンジンのアシストのみに使う。モーターの出力が小さい分、燃費改善効果も限定的だ。

この燃費が今回のe-POWER投入で大きく引き上がる。セレナのS-ハイブリッドはガソリン1リットル当たり16.6km。e-POWERタイプでは同26.2kmと約10kmも改善。ホンダの「ステップワゴン」は同25.0km、トヨタの「ヴォクシー」は同23.8kmと、ライバルを一気に追い抜く。売れ筋のミニバンで、燃費の弱点も解消できるとあって、日産の期待が膨らむのも当然と言える。

日産の世界販売は、仏ルノーとのアライアンス(企業連合)も有効に活用し、8年連続で前年実績を上回るなど右肩上がりの成長を続けてきた。一方、国内販売には違った景色が広がっている。かつてはホンダと激しい2位争いを繰り広げていたが、ここ数年は軽乗用車を含めて4~5位に低迷。2017年で見ると、首位に君臨するトヨタの3分の1程度の59万台に甘んじ、ホンダのみならず、スズキやダイハツ工業の後塵を拝する状況だ。

カルロス・ゴーン会長はかねて「国内で第2位のブランドでなければならない」とハッパをかけてきた。だが、2017年の登録車販売台数のトップ30に日産は3車種(トヨタ16車種、ホンダ5車種)しかランクインしていない。この事実が示すように、売れ筋車種のラインナップは競合他社と比べて不足ぎみだ。

しかも、日産はこの2年間、自身や提携先の不祥事が相次ぎ、国内販売の足を引っ張ってきた。2016年は、三菱自動車からOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受ける軽自動車で燃費データの不正が発覚し、販売台数の減少に見舞われた。

加えて、昨年9月には、国内5カ所の車両組立工場で、長年にわたって無資格の従業員が出荷前の完成車を検査していた不正が判明。114万台のリコール(回収・無償修理)に発展したうえ、約20日間の生産停止に追い込まれた。検査員の育成や再発防止策などを徹底させるため、工場の生産スピードを落としてきた(3月末までに完全に正常化する見込み)うえ、リコール作業は現在も続いている。

「不祥事が2年連続だからね。今年こそは何にも邪魔されず、車を売りたいよ」

西日本の日産系販売会社の社長が自嘲ぎみに語るように、販売現場には不満が鬱積している。この会社では昨年10~12月の販売台数は計画比で2割減った。

社長は、2010年の発売以降初めて刷新されるとあって、EV(電気自動車)の新型「リーフ」には高い期待を寄せていた。だが、無資格検査問題を受け、大規模な販促活動は縮小や中止に。売れ筋車種の少なさも従来感じており、e-POWER搭載車種の拡充を待ちわびていたという。

東京都内の日産系販売店関係者もセレナe-POWERに大きな期待を寄せる。「これでやっと本格的な再スタートが切れる。完成車の無資格検査問題で離れていったお客様には、また戻ってきてほしい」

e-POWERのラインナップが広がれば、その効果は拡販にとどまらない。セレナe-POWERに搭載されているモーターやインバーターは、ノートe-POWERやリーフと基本的に同じものだ。スケールメリットが出れば、車の製造コスト低減にもつながる。

リーフの普及には、充電時間の長さや航続距離の短さなどに加えて最低でも300万円以上する価格がネックだ。また、e-POWER搭載車種でも、従来モデルと比べてノートで30万円程度、セレナで45万円程度の上乗せが必要で、選択に悩む消費者も少なくないだろう。e-POWERがますます売れてくれれば、将来的な値下げや生産能力増強も期待できる。

加えて、「e-POWERで電動車の運転の快適さを一度知ってしまったら、通常のガソリン車には戻れない」(星野専務)と言うように、現状ではEVに不安を覚えている層を引き付け、将来のEV購入への道筋を作る役割を担わせる狙いも透けて見える。

日産では中国など海外への投入も含め、今後も売れ筋車種からe-POWERを拡大させる方針だ。セレナの次は、SUV(スポーツ多目的車)の「エクストレイル」への搭載が有力視されている。EVシフトの流れが各国で進む中、日産はe-POWERを国内だけでなく、海外でもキラーコンテンツに育てられるかどうか。目が離せない展開が続きそうだ。