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日産、「トライカム」「HDマップ」などで高速道路の“同一車線内ハンズオフ”を実現する「プロパイロット 2.0」説明会
日産自動車は5月16日、同日に発表した世界初の運転支援システム「プロパイロット 2.0」について解説する技術説明会をグローバル本社(神奈川県横浜市)で開催した。
説明会では、同日から日産の副社長に就任した中畔邦雄氏が最初に登壇。プロパイロット 2.0の概要を説明した。なお、説明会の様子はYouTubeの日産公式チャンネルでライブ配信され、現在もアーカイブ動画が公開されている。
中畔副社長は、現代の“技術の日産”の象徴となる「ニッサン インテリジェント モビリティ」が、安心・安全・快適なドライビングを提供する「インテリジェントドライビング」、EV(電気自動車)やe-POWERといったクルマの電動化でワクワクを提供する「インテリジェントパワー」、コネクテッドやITなどでクルマと社会をつなぐ「インテリジェントインテグレーション」の3つの柱があることを紹介。新たに発表したプロパイロット 2.0は、インテリジェントドライビングを具現化する最新技術であり、日産が満を持して世に送り出す技術であると中畔副社長はコメント。
日産では2000年以前から20年以上に渡って運転支援技術に取り組んでいるパイオニアであると中畔副社長は述べ、これまでにさまざまな運転支援技術を世界で初めて市販車に投入してきたとアピール。これらの技術を世界中のユーザーに使ってもらう中でさらに熟成していき、新たな技術革新を生み出してきたという。
そういった技術の集大成となったのが、2016年8月に「セレナ」に搭載して商品化した自動運転技術「プロパイロット」であり、このプロパイロットも多くのユーザーが利用してきている。日本市場でデビューしたセレナ以降も北米、欧州、中国といった市場にプロパイロットを搭載する計7モデルを投入。累計で35万台以上を販売して、ユーザーから安全性、信頼性、快適性が高く評価されているという。
プロパイロットはそれまでに積み重ねてきた「クルマの周囲360度のリスクから乗員を守る」多彩な予防安全技術を高い次元で統合することで実現。そこから「より広いシーンで」「より使いやすく」「より多くのお客さまに」といったコンセプトに基づきさらなる開発を実施して、高速道路の同一車線内でハンズオフが可能となる世界初の運転支援システムとしてプロパイロット 2.0が発表されることになった。
プロパイロット 2.0は、HDマップ(3D高精度地図データ)を使った世界初の「インテリジェント高速道路ルート走行技術」で、「同一車線内のハンズオフ機能」「ナビ連動ルート走行機能」を兼ね備える新しいプロパイロットであると中畔副社長は説明。
この商品化にあたっては、HDマップ、360度センシング、インテリジェントインターフェースという3種類の新技術を導入。さらにルート走行時に日産が得意とする精度の高い、洗練されたハンドリング性能が実現のキーになっているという。なお、プロパイロット2.0で採用するHDマップについては、国内自動車メーカー9社と地図会社など7社によって2017年6月に設立された「ダイナミックマップ基盤」が提供する地図データをベースに、プロパイロット 2.0向けにゼンリンがチューニングを行なったものを使用しているとのこと。
最後に中畔副社長は、プロパイロット 2.0を今秋の発売を予定している新型「スカイライン」(現行V37型のマイナーチェンジモデル)に搭載して市場投入することを発表。スカイラインについては、時代ごとの最先端技術を搭載して“技術の日産”の象徴的な1台であると語り、他の先進技術同様に、日本発でグローバルに展開していくと説明してプレゼンテーションを締めくくった。
プロパイロット 2.0の技術説明は、日産自動車 AD/ADAS先行技術開発部 部長 飯島徹也氏が担当。
飯島部長はまず、プロパイロット 2.0で実現した中心機能の1つであるナビ連動ルート走行機能について解説。この機能では車両のカーナビで目的地を設定し、高速道路に乗るとその時点から機能を開始して、高速道路から下りるまで運転をアシスト。ルート内にJCT(ジャンクション)などが存在する場合は、分岐の選択についてアシストを行なうなど、カーナビと運転支援機能が連携して働くシステムとなっている。
また、高速道路の本線に入るともう1つの中心機能である同一車線内のハンズオフ機能が作動。さらに状況に応じて「追い越し時の車線変更の支援機能」も利用可能となる。
プロパイロット 2.0を可能とした3つの新技術では、HDマップは高速道路の形状をセンチメーターレベルで詳細に3D化した高精度地図データとなっており、すべてのレーンにある区分線(車線)や標識類など走行に必要となる情報も備えている。
このHDマップを利用することで、車両のタイヤが道路内でどの位置にあるのかを高精度に把握可能。これによって格段に滑らかで正確なステアリング制御を実現できるという。また、道路が曲がっていてカメラでは進行方向の状況を認識できない場合でも、HDマップに収められている地図情報を先読みして道路の曲率や勾配などを把握し、車速を滑らかに制御できることがメリットになるという。さらに、車線が多い道路でJCTの分岐や出口を利用する場合には、「現在、自車がどのレーンを走行しているか」を正確に把握していなければ、計画性のあるレーン案内や車線変更支援が行なえないと飯島部長は語り、HDマップの重要度を解説した。
2点目の360度センシングでは、モービルアイ製の3眼式カメラ「トライカム」を新採用。3つのカメラによって150度、54度、28度という3種類の画角と焦点距離が異なる映像を手に入れ、横方向をより広く、車両前方をより遠くまで認識できるようにしている。
このトライカムの3個にアラウンドビューモニターの4個を加えた計7個のカメラ、フロントと両サイドを監視する計5個のレーダー、さらに計12個のソナーなどを使い、自車の走行レーンと両サイドといった道路の詳細情報、周囲の交通状況などをリアルタイムで把握。これによって複数車線の運転支援を可能にしているという。
3点目のインテリジェントインターフェースは車両とドライバーのやり取りに関わる部分となり、車両がHDマップと360度センシングで手に入れている膨大な情報を、分かりやすいように処理を行なってドライバーに伝えるものとなっている。また、プロパイロット 2.0で実現している追い越し時の車線変更の支援機能を利用するシーンでは、実際にアクションを起こす前にドライバーの承認を必要としており、ステアリングスポークに設定されたスイッチを押すことで車線変更が開始される。
車線変更時にはハンズオフ体勢からステアリングに手を添えることになり、この認識はステアリングに内蔵されたタッチセンサーや反力によって検知するという。また、HDマップは車線の情報も含んでおり、例えば隣接するレーンとの区分に車線変更禁止を意味する黄色の実線がある場合には、車線変更の支援機能が働かないよう設定しているとのこと。
インパネにはドライバーの前方注視をチェックするドライバーモニターが設置され、居眠りや脇見などが起きている場合は音などで警告が行なわれ、最終的には異常発生と判断して同一車線内での緊急停止が作動する。
質疑応答では、今後も続いていく高速道路の新規開通に対してどのようにHDマップをアップデートさせていくのかについて質問され、これに対して飯島部長は「地図のアップデートは年に数回、一定期間ごとに行なわれます。それをテレマティクスで自動配信してアップデートを行なう機能を持っています」と回答。
また、新技術が導入されたニッサン インテリジェント モビリティの今後の展開に関する質問には中畔副社長が回答し、「今日、プロパイロット 2.0を出しましたが、運転支援技術がこれでしばらく新しいものがないということではなく、どんどん進化をさせていきます。もう1つ、電動化の技術も例えばe-POWERのパフォーマンスを高めたものを矢継ぎ早に出していきます。また、新しいバッテリーEVのテクノロジーも出していきます。インテグレーションのところでも、コネクテッドの技術を2020年までにグローバルで出しているクルマを100%コネクテッドにしていく、その中にアプリケーションやお客さまに気に入って使っていただけるようなサービスなどを入れていきますので、そのような3つの軸でどんどん加速していきたい」。
「もう1つ言っておきたいのは、これは西川(社長)も言っていたように、これから3年間でコアモデルのほとんどをリニューアルして新車にしていきます。そこには本日のプロパイロット 2.0も含め、それぞれで新しいニッサン インテリジェント モビリティの機能を入れていきますのでご期待いただきたいと思います」とコメントした。
プロパイロット 2.0の初搭載を新しいモデルではなく、2013年11月の発売から5年以上が経過している現行モデルのスカイラインに搭載する理由については、中畔副社長が「まず、この機能をいち早くお客さまに使っていただきたいということで、タイミングを考えています。また、やはりスカイラインはシンボリックなクルマでもあり、私が言いましたように過去にも新技術を投入しています。そしてそこから大きく開くということではなく、来年以降に出てくるクルマを含めて適切なモデルを見つけ、新車投入時に出していくことを考えています」と答えた。