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西村直人の日産「プロパイロット 2.0」は何が進化したのか
日産自動車が誇る運転支援システム「ProPILOT(プロパイロット)」の進化版、「ProPILOT2.0」が発表された。初の搭載車は2019年秋にマイナーチェンジを行なう「スカイライン」であることも発表と同時に公表されている。先ごろ開催されたプロパイロット 2.0発表会での様子は別記事にアップされている通りなのでそちらをご確認いただきたいのだが、今回はそこから少し深掘りし、これまで日産が開発を進めてきた自動運転技術の振り返りとともにプロパイロット 2.0の機能進化はどこにあり、ドライバーはどのような点に留意して使いこなしていくべきなのかを考えてみたい。
とはいえ、実際にプロパイロット 2.0搭載車での公道試乗は少し先になることから、本稿の内容は発表されている機能や車載センサー、そしてシステムを稼働させるために必要な要件、既存の法律、過去に取材した「西村直人の“自律自動運転”を考える(トヨタ&日産編)」「西村直人の日産自律自動運転実験車『2017年プロトタイプ』体験レポート」などから推察した結果であることを最初にお断りしておきたい。
日産は2016年、2018年、2020年へと段階的に運転支援システムであるプロパイロットを進化させていくと表明しているが、初めての搭載車が2016年8月発売のミニバン「セレナ」であったことは記憶に新しい。運転支援システムを市販車に導入する大きな狙いは「交通死亡事故の低減」にあるわけだが、そうした意味で同社の販売主力モデルであり多人数乗車となる確率が高く、長距離走行の機会や走行回数の多くなるセレナにプロパイロットを初めて実装した事実について筆者は今でも感心している。
その後、プロパイロット搭載車は増え続け、日本を含めた世界市場では7モデルにまで展開が進み、累計販売台数は35万台を数えるまでになった。日産では「2016年末までに混雑した高速道路上で安全な自動運転を可能にする技術を日本市場に導入する」(2015年10月発表のコメントより)と宣言。今でこそ自動運転というフレーズは使われていないものの、こうしてセレナからプロパイロットの実装がスタートしたわけだが、改めてそのプロパイロットとは何かを紹介したい。
プロパイロットとは、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC/追従走行支援機能)である「インテリジェントクルーズコントロール」(日産での呼称)と、レーン・キープ・サポート(LKA/車線中央維持支援機能)である「ハンドル支援」の2大運転支援システムの組み合わせ技術である。よってSAE自動化レベル2に分類される。このプロパイロットは、前走車をセンサーが認識しているなど所定の条件を満たしていれば、ハンドル右側の操作スイッチを2回押すだけで起動可能。これは非常に分かりやすいインターフェースで、こうした運転支援技術に慣れていないドライバーでも操作に戸惑うことが少ない。
プロパイロット 2.0はプロパイロットでの2大運転支援システムに、次の①と②の機能が追加されたと考えると分かりやすい。
①高速道路でのナビ連動ルート走行中、同一車線走行時に限ってステアリングから手を放した状態でのハンズオフ走行が可能。これを日産では「同一車線内ハンズオフ機能」と呼ぶ。
②ナビ連動ルート走行中、同一車線上に自車設定速度よりも遅い車両がいる場合、追い越し可能であることをシステムがドライバーに知らせ、ドライバーがステアリングに手を添えてスイッチ操作を行なうと自動的に車線変更し、追い越しが終わると安全な車間距離が保たれた時点で、同じくドライバーに知らせ同様の操作で元の車線に戻ることが可能(追い越し支援)。加えて、ナビ連動ルート走行中、分岐の支援を行なうことも可能(車線変更支援)。追い越し支援と車線変更支援を合わせて日産では「ナビ連動ルート走行」機能と呼ぶ。
上記の①と②の機能で大切なことは次の2点。まず、「走行前にルート設定を行ない、そのルートを走行中に起動する限定的な機能である」ということ。続いて、「システムの起動と終了に際しては、事前にドライバーが理解しておくべき手順が複数ある」ということだ。
まず起動だが、A:あらかじめ車載の純正カーナビによってルートを設定し、B:ルート上の高速道路本線上に車両が走行していることが認識され、C:なおかつシステムが正しく機能する要件が整い、D:ドライバーにディスプレイ表示と音で報知した後に、E:ドライバーによるスイッチ操作(≒ゴーサイン)が必要だ。
反対に終了は、A:ルート上の高速道路の出口に近づくと、B:システムからディスプレイ表示と音でシステムの終了が近づいていることが報知され、C:出口に続く連絡路に分岐したことが認識されると終了する。
いずれの場合であっても、これまでのプロパイロット同様に、例えばドライバーがブレーキ操作を行なえばSAE自動化レベル0、すなわち完全なるドライバーによる手動運転にすぐさま戻る。また、試乗前なので推測だが、国連のWP29/GRRFのR79/ACSFの検証事項を踏まえると、車線変更支援が働いている場合であっても、ドライバーのステアリング操作によってシステムによる運転支援操作を直ちに中断させることが可能で、手動運転に戻ることもできる、はずだ。
ちなみにプロパイロット 2.0の①と②の機能は、GRRFの自動操舵専門家会議におけるカテゴリーB2~カテゴリーD(現在はカテゴリーEまで存在)での議論内容とも合致していると筆者は解釈していることから、将来的には日産以外の国内自動車メーカーからもプロパイロット 2.0と同類の運転支援システムが実装されると予想する。また、先ごろBMWでは「ハンズ・オフ機能」(BMWでの呼称)を導入すると発表しているが、これは高速道路上で前走車への追従走行をしている場合、60km/h以下での走行時に限り、ステアリングから手を放した状態で走行可能とする運転支援システムだ。
運転支援システムはこの先、ますます高度化していく。同時にHMI(人とシステムの接点)も熟慮が重ねられ、今よりもずっと高いレベルにまで昇華されるだろう。しかし、それらと共存していくドライバーの役割は一時的に増えることも容易に予想される。運転支援システムにより運転操作による身体的な疲労度はいくぶん下げられることが期待できるが、そのシステムを使いこなした(≒過信を抱かない)協調運転を実践していくには、システムに対するドライバーの深い理解が不可欠だからだ。
例えば、新機能が盛りだくさんのスマートフォンやPCを手に入れると、これまで以上に情報入手が簡単に行なえたり、仕事のさらなる高効率化が期待できたりする一方で、それらを手足のように使いこなすまでには取扱説明書を読み込むなど、一定の時間がかかる。こうした事象が高度な運転支援システムとドライバーの間で発生することはほぼ間違いない。
「プロパイロット 2.0では高度な運転支援システムにより運転操作の軽減が期待できます。われわれとしてはシステムを過信することなく正しく理解して使っていただくために、オーナーズマニュアルには徹底的にこだわっていくつもりです」と語るのは、日産自動車 AD/ADAS先行技術開発部 部長である飯島徹也氏だ。
飯島氏に対して筆者は過去6年以上、日産の自動運転技術や運転支援システムについてインタビューを行ない、拙著にも登場いただいている。氏は続けて「プロパイロット 2.0では、3D高精度地図データと7個の光学式カメラ、5個のミリ波レーダー、12個の超音波ソナーから格段に正確なステアイング操作を実現しています。その精度は前後方向で1m、左右方向に至っては5cm程度です」と語った。
プロパイロット 2.0の公道試乗が本当に楽しみだ。と同時に、ACCや衝突被害軽減ブレーキといった普及が高まりつつある運転支援システムに対する誤解が後を絶たない市場における現状を直視すると、システムのできること、できないことを真っ先にわれわれメディア側が理解し、声を大にしていくことが使命であると痛感している。交通コメンテーターである筆者も、正しい普及の一助となるため積極的に活動を継続していくつもりだ。
「プロパイロット 2.0は自動で運転する装置ではありません。ドライバーは周囲の状況や車両の動作に常に注意し、確実にハンドル、ブレーキ、アクセルを操作し、安全な運転を行なう責任があります。また、プロパイロット 2.0は、側方にいる車両に反応しません。合流部、カーブを走行するとき、また大型車両が隣の車線を走行しているときは特に周辺車両に注意し、必要に応じてハンドル操作をしてください」。
「ドライバーが常に前方に注意して道路・交通・自車両の状況に応じ直ちにハンドルを確実に操作できる状態にある限りにおいて、同一車線内でハンズオフが可能となる運転支援システムです」。
「対面通行路、トンネル内、急なカーブ路、料金所・合流地点およびその手前などでは、ハンズオフできません。ハンズオフができない区間に入るときにはシステムが事前にドライバーに報知するので、ドライバーはハンドル操作をする必要があります」。
上記の文面は、現在、日産が公開しているプロパイロット 2.0の説明サイトに掲載されている原文だ。できること、できないことが整理され、とても分かりやすく明文化されている。このように技術を使いこなすためには、ドライバーがシステムの技術的な限界点を知ることが何よりも大切であると筆者は考えている。