プレゼンテーション「新生産技術の導入に関する記者会見」

日産自動車株式会社 / 技術

新生産技術の導入に関する記者会見

記者発表会の詳細を見る

Car Watch

日産、新生産技術コンセプトを2020年導入。「ニッサン インテリジェント ファクトリー」説明会

 日産自動車は11月28日、自動車生産技術の次世代のコンセプト「ニッサン インテリジェント ファクトリー」を発表。同日に神奈川県横浜市にある日産グローバル本社で技術説明会を開催した。

 ニッサン インテリジェント ファクトリーは、安全で持続可能な社会の実現を目的として日産が推し進めている「ニッサン インテリジェント モビリティ」の取り組みにより、今後もクルマの「電動化」「知能化」といった進化が続き、これを受けて生産工程でもさらなる技術革新が不可欠であるとの判断から生み出されたもので、6年の歳月をかけて取り組んできたという。

 説明会では、日産自動車 執行役副社長 生産・SCM担当の坂本秀行氏が登壇。坂本氏は冒頭で「最近、自動車の技術の話ということになると、『自動運転のための知能化技術』『EVなどの電動化技術』『コネクテッドのための通信処理技術』といった話題が中心になっております。と、言いながら、私もそんな話をしている一味なのですが、決して忘れてはいけないのが、その技術のベースになる部分に生産技術、および生産管理システムと言いますか、関連する科学の力があることが極めて重要だと思っております。さらに、今後われわれが作っていく複雑で高度なクルマについて考えると、そんな生産技術の飛躍が明日の日産の飛躍のために要になると考えております」と語り、同日発表したニッサン インテリジェント ファクトリーが日産の将来にとって非常に重要であることを強調した。

 坂本氏は、日産が創業当時から日本初のスケールとなる1万台規模の量産にチャレンジしているなど、86年に渡る歴史の中で量産ラインの高品質化、高効率化に取り組んできたと紹介。しかし、現在の日本は少子化の進行などによって人手不足が深刻化しており、これまでのような「労働集約型」の労働環境を改革していくことが急務であるとした。

 これに加え、今後生産することになるクルマでは電動化や知能化などがさらに進展。搭載するシステムの複雑化も進んでおり、とくに自動運転の技術を採用するクルマでは、センサー、ビジョンシステム、コントロールユニットなど高度なシステムを備えるようになり、生産でも大きな課題になるという。さらに古くから使い続けられてきた内燃機関のエンジンに加え、「e-POWER」のようなハイブリッドシステム、バッテリーの容量で航続距離が変わるEV(電気自動車)など多彩なパワートレーンが登場しており、ADAS(先進運転支援システム)の関連技術でも、すでに広く普及しているものから新型「スカイライン」にオプション設定した「プロパイロット 2.0」など高度化が進捗。技術の1つひとつが高度になっていることに加え、その組み合わせも複雑になり、生産工程での難易度が格段に高まっているという。

 この対応策として考えられたのが、「未来のクルマをつくる技術」「匠の技で育つロボット」「人とロボットの共生」の3つを柱とするニッサン インテリジェント ファクトリー。このニッサン インテリジェント ファクトリーでは自動車生産に関するさまざまな技術を用意しているが、説明会では“3つの柱”の代表的な技術について解説された。

 電動化や知能化といった複雑な技術によって高度化を続けるクルマの量産に対応する「未来のクルマをつくる技術」で紹介されたのは、「パワートレイン一括搭載システム」。現在の日産の生産ラインでは、ライン上の高い位置にあるボディにエンジンやモーター、バッテリー、燃料タンク、インバーターなどのパワートレーン構成パーツ、足まわりのサスペンションやアクスル、燃料配管などのアンダーフロアパーツを、6工程の手順に分割して組み付けを実施している。

 作業者は見上げるような姿勢で組み付けを行なっており、肉体的な負荷が大きいことに加え、この部分の作業は高い精度が求められ、完成したクルマの品質に大きく影響するという。また、6工程に区分することでライン内に大きなスペースを用意する必要があり、エンジンやモーター、日産独自のe-POWERといった多彩なパワートレーンに対応する難易度も高くなってしまう。

 これに対し、「パワートレイン一括搭載システム」では独自開発した「二層パレットシステム」を使い、パワートレーン構成パーツやアンダーフロアパーツを事前にパレット上に集約。ボディ側の取り付け位置を画像認識技術で計測し、0.05mm単位の精度で自動組み立てを行なうという。エンジンやモーター、バッテリーなどのユニット構成は27種類(将来的な拡大の余地を含む)の組み合わせを可能として、さまざまな車両の組み付けを1工程で完了する。

 高品質なクルマを生み出す「匠の技」を数値化してロボットに移植していく「匠の技で育つロボット」では、「シーリング塗布・仕上げ自動化」について解説。ボディパネルでは生産段階で継ぎ目部分の段差を埋め、水密(車内などに水が浸入しないよう防ぐ加工)を確保するシーリングが行なわれているが、完成後も人目に付きやすい箇所もあってクルマの見栄えにも大きく影響する。そこで日産では、この作業に熟練工の「匠の技」で仕上げを行なっている。

「シーリング塗布・仕上げ自動化」では、シーリングを行なう幅や見栄えを損なわない刷毛さばきで重要となる熟練工の技術を「動作角度」「圧力」などで数値化。人の手の感覚をロボットに移植することに成功しているという。これにより、シーリングの仕上げ工程まで自動化し、シーリングの厳密な塗布量もシステムの高度な制御でフィードバックできるようにしている。

 導入後は日常的な車両生産のシーリング作業はロボットが行ない、熟練工はますます複雑化していくクルマの作業工程をどのように進めていけばいいのかを立案し、ロボットに移植していく立場になっていくという。

 人とロボットがお互いに弱い部分を補い合い、人が働きやすい環境を構築。「生産活動のダイバーシティ(多様化)」を加速させる「人とロボットの共生」では、「ボディ・バンパー同時塗装&新型ドライブース」について解説。従来技術での塗装工程では、高温での焼き付けを行なう金属製のボディと高熱に弱い樹脂製のバンパーは、異なる塗料を使って別の工程として塗装している。

 この工程を1つにまとめるため、日産では低温硬化技術を持つ独自の水性塗料を開発。金属と樹脂の異なる素材に対しても完璧な色合わせを可能としているほか、工程を集約することでCO2の排出量を25%低減するという。

 また、塗装工程ではボディやバンパーに付着しなかった塗料が飛沫となって周囲に飛び散ることになるが、従来技術では水を使って回収しているところ、新技術では乾式パウダーによって回収を実施。さらに回収後の廃粉は鋳造工程で成分調整剤としてリサイクル。新型ドライブースでは運用エネルギーを25%削減するなど環境保護に対して大きく貢献できるとしている。

 このほかの技術では、24時間にわたって安定的な生産が可能になる「デフギア自動組立」、合わせ精度の均一化を実現する「コックピット自動組付」、見えない部分にあるホールにクリップを押し込めるようにして、人力では作業負荷の高い作業をロボットに任せる「ヘッドライニング自動組付」などを生産ラインの面で紹介。

 また、工場自体のデジタル化も加速させ、集中管理室ではAI(人工知能)の導入によって各設備の故障時期を事前に予測。実際に故障が発生した場合には、現場の担当者に遠隔指示を行なうことで復旧時間を40%削減する。イメージ映像では担当者が装着したスマートグラスに復旧作業で必要な情報が表示され、スムーズに作業が進む様子も紹介された。ライン内の要所には「クオリティゲート」が新設され、電動工具による締め付けトルクなどのチェック、作業を行なう検査員の生体認証による管理などを実施。ユーザーに高い品質の車両を提供できるよう保証可能になるとしている。

 後半に行なわれた質疑応答では、ニッサン インテリジェント ファクトリーの展開タイミングについて、生産ラインでの導入に際しては生産を一時的にストップさせる必要があり、稼働率が高い工場のラインは止めることが難しいとコメント。どのタイミングで入れ替えを行なうかの判断が本当に難しいと語り、最初に導入することになった栃木工場については偶然にも設備更新のタイミングとマッチして、すでに1つのラインを止めている状態で実現が容易だったと坂本氏は説明した。

 また、国内にある九州工場、追浜工場も更新時期が近付いており、ニッサン インテリジェント ファクトリーの導入なしには“次世代のニッサン インテリジェント モビリティ”の量産化が難しくなるとしつつ、国内の工場で生産台数が最も多い九州工場はラインの稼働率も高く、導入効果も高く発揮される一方で生産ラインを止められる状態ではないという。そのため、移行のタイミングを決めきれずにいると明かしている。

 この導入によって作業員をどれぐらい削減できるのかといった質問に対しては、ニッサン インテリジェント ファクトリーはマンパワーの削減を目的としたものではなく、むしろ難易度の高い作業を自動化し、負荷を低減することで、定年延長による高齢者や女性に対する門戸開放で人材の多様化をターゲットにしていると説明した。

 近年、他業種では製品の開発や設計を行なう会社と工場での量産を請け負う会社が異なるケースも増えてきており、自動車産業でこのような取り組みが検討されることがないのかといった質問に対し、坂本氏は「私の考え方ですが、やはり自動車メーカーの競争力の源泉は『クルマを設計すること』と『クルマを生産すること』の2つで成立していると思っています。自動運転で言うと、今はだいだいレベル2~3といったところが当社の製品でも実現できていますが、これからレベル4といったところまでいくことになります。そうした複雑なシステムでは、1つひとつのセンサーのキャリブレーションやビジョンシステムの搭載などを、クルマ固有のばらつきにうまくアジャストさせる仕事がかなり難しいんです。そういったキャリブレーションや品質保証のシステムは、内部で保証しているからこそ高度なシステムとしてお客さまにお届けできる。逆に言えば、そうした高度なシステムを量産価格で提供できるというところに競争力の源泉があると思います」。

「開発の方も『ここで終わり』という停滞する部分があるなら(受託生産のような)方向性もあるのでしょうが、クルマは停滞することなく永遠に進化していきますので、それを可能にするような生産技術の開発、および廉価にしていくというところが自動車メーカーの本質的競争力じゃないかと私は思っています」と回答している。