プレゼンテーション「日産自動車社長就任記者会見」

日産自動車株式会社 / 技術

日産自動車社長就任記者会見

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東洋経済オンライン

日産がルノーへの態度を変えた切実な事情

「アライアンスは部品の共同購買や車台の共用化、人材の活用など、さまざまな成果を生み出してきた」「着実な成長にはアライアンスの活用は欠かせない」

日産自動車の新しい経営トップ3人による「トロイカ体制」が12月1日に始動した。同2日に就任記者会見に臨んだ内田誠・社長兼最高経営責任者(CEO)は、フランスのルノーや三菱自動車と組むアライアンスの有用性を繰り返し強調した。

一方で、懸案となっているルノーとの資本関係見直しについては言及を避けた。低迷する業績立て直しを優先するため、両社の経営統合問題など対立の火種になりかねないテーマは封印した格好だ。

記者会見では、西川廣人前社長が示した経営再建路線を引き継いでいく方針を示した。再建に向け、短期的にやるべきことは明確だ。それは過剰になっていた生産能力と人員を削減して固定費を減らし、継続的に新車を投入していくこと。米中貿易摩擦などの影響で世界的に新車販売が伸び悩む中、リストラ策を積み増したり中期での経営目標を変更したりする可能性はあるが、基本的な路線に変更はなさそうだ。

その反面、日産に43.4%を出資するルノーとの提携関係見直しをめぐっては、西川氏のこれまでの発言とは微妙な温度差を感じさせた。

カルロス・ゴーン会長(当時)が2018年11月に逮捕されて以降、日産とルノーは“暗闘”を続けてきた。両社のトップを兼ねたゴーン氏という絶対権力者が去ったことで、マグマのように元々溜まっていた相互不信が一気に噴出した。

ルノーは日産の最高幹部人事に再三介入したうえ、日産との経営統合を要求したのに対し、日産経営陣は強く反発。経営破綻寸前だった日産をルノーが救済する形で1999年に誕生したアライアンスは、20年目にして最大の危機を迎えた。

西川氏は任期途中から、業績回復とルノーとの関係見直しという最重要の経営課題を同時並行して進めてきた。経済産業省出身の豊田正和・社外取締役の支援を受け、ルノーによる出資比率引き下げなど、フランス側との交渉を水面下で続けてきた。

西川氏は「ルノーの経営関与が強まることはないし、絶対にさせない」「経営統合は日産が価値を生み出す力を毀損する可能性がある」などと、ルノーやその筆頭株主であるフランス政府の神経を逆なでしかねない発言も厭わなかった。アライアンス解体を主張する「過激派」ではないが、ゴーン氏失脚を機にルノー主導の現状を変えようとする「強硬派」とも言えた。

内田氏は12月2日の記者会見で「会社の独立性を保持しながら活動を進めていきたい」と述べた。記者から発言の真意を問われると、「経営統合はあくまでも形でしかない。各社の利益にアライアンスがどう貢献できるかが重要だ」と直接的な回答を避けた。社長として初の表舞台だったということもあるが、フランス側を刺激しないよう慎重な発言が目立った。

内田氏がルノーとの関係について踏み込んだ発言がしにくい背景には、日産自身の業績不振のために身動きが取りづらいことがある。北米や新興国での戦略ミスなどによって、今2020年3月期の営業利益は1500億円(前期比53%減)にとどまる見通しだ。

経営再建に注力するためには、ルノーとの主導権争いに時間と労力を費やすよりは、むしろ協業によるコスト削減を進めたほうが得策とみている。ある日産幹部は「今はアライアンスを安定化させることが重要。資本うんぬんの話は当面棚上げになる可能性が高い」と言う。

加えて、内田社長を筆頭に、ルノー出身のアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)、生え抜きの関潤副COOによるトロイカ体制が誕生したのは、ルノーへの配慮という側面が強いこともある。内田氏はアライアンスの共同購買組織やルノー傘下の韓国合弁会社への出向経験があり、ルノーからの信頼が厚いとされる。

ただ、今年9月に辞任した西川前社長の後継選定過程では、指名委員長の豊田取締役が関氏を推すなど、内田氏は当初は2番手の存在だった。そこから逆転して内田氏に決まったのは、ルノーのジャンドミニク・スナール会長による支持が大きかった。こうした経緯がある以上、ルノーを刺激するような言動には慎重にならざるをえないのかもしれない。

「アライアンスに憧れて日産に入社した」というだけあって、内田氏はアライアンスを経営戦略の根幹に据える考え方の持ち主だ。記事冒頭の発言からわかるように、過去のアライアンスの実績についてもかなり肯定的で、対ルノーの点では「穏健派」と言える。

その一方で、日産社内にはルノーとの現状の提携を疑問視する意見も根強い。先端技術などでルノーは日産に依存しているにもかかわらず、資本関係ではルノーが圧倒的優位に立つためだ。

実務面でも日産の新車開発にルノーから横やりが頻繁に入るなど、特に開発部門ではルノーへの不満が溜まっていた。「アライアンスによる協業効果が最も現れているのは、部品や資材などを共同で調達する購買分野。購買部門出身の内田さんはアライアンスのいい側面しか見えていないのではないか」(日産関係者)との声も漏れ聞こえる。

内田氏がルノーへの配慮を強めすぎると、日産社内での求心力を失う可能性もある。

ゴーン時代に経営統合を暗黙の前提として進められてきた、開発や人事など両社の主要機能を一本化する取り組みについて、前体制と同様に内田新社長の下でも見直し路線を継続していくのかも注目だ。

一時はフランス政府が前面に出て経営統合への要求を強めたルノーも、最近では鳴りを潜めている様子だが、日産との経営統合を諦めたわけではない。内田氏は当面は業績回復に集中できるとしても、いずれアライアンスをめぐる重要局面が必ずやってくるはずだ。その時にどう動くのか。53歳の新社長の指導力が問われている。