プレゼンテーション「日産自動車社長就任記者会見」

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日産自動車社長就任記者会見

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日産、「ONE TEAM」を掲げ「異論や反論が許される会社風土」を目指す内田誠新社長記者会見

 日産自動車は、12月1日付けで新たに代表執行役社長兼最高経営責任者(CEO)に就任した内田誠氏による社長就任記者会見を開催した。

 なお、この模様は日産の公式YouTubeチャンネルでライブ配信が行なわれ、現在もアーカイブ動画を公開している。

 内田氏は会見の冒頭で「まず、この1年、当社は大きな混乱をきたし、世間の皆さまをお騒がせしましたことを厳粛に受け止めております」とコメント。

「私は日産が創立70周年を迎えた2003年に入社しましたが、社会人になって約10年だった当時の私から見ていても、日産は大きな存在でした。日本経済を牽引する自動車メーカーであり、ルノーとのアライアンスによってダイナミックに拡大するグローバル事業は新しい日本企業の今後のあり方を示していると感じていました。これまでの日本企業としての強みと、アライアンスによるグローバルな価値観を合わせ持つ日産に、大きく飛躍する可能性があると魅了されて入社しました」と語り、新卒入社した前職の総合商社から転職した経緯について説明。日産でのキャリアについて語りつつ、入社前に感じていたことをまさに肌で感じたとした。

 アライアンスについては「私が入社して以降、現在までの間において、日産自動車は着実に成長を遂げましたが、その中でアライアンスは大きな貢献をしてきました。部品や資材の共同購買、車台やパワートレーン、部品の共用化、人材の活用など、さまざまな成果を生み出しました」と評価。しかし、昨今では国内工場における完成検査の問題や経営者の不正が明らかになるといった問題が発覚。これによって企業としての社会的な信頼を失ったことに加え、中期経営計画でハードルの高い目標を設定して推し進めた結果、急激な業績低下を招いたとした。

 内田氏は、日産はこれまでもクルマの技術開発で本質を追究し続け、先進的な商品の開発で他社に先駆けて挑戦して数多くのブレイクスルーを実現するとともに、グローバル競争に打ち勝つべく、アライアンスという“経営面での新たなブレイクスルー”を起こし、1990年代の経営危機を乗り越えて成長軌道に乗せたことを評価し、「決して経営戦略や事業戦略などに誤りがあったとは思いません」とコメント。しかし、その運営課程で「企業文化に関わる問題が生じてきたのではないか」と指摘。「目標設定において、できないことをできると言わせてしまう文化がいつの間にか作り上げられてしまった」と分析した。

 これにより、「社員の自発的な横連携」「問題解決の意欲」を削いでしまい、高いハードルをクリアするために「短期的成長を求めた行動」を起こして技術開発や商品開発といったプロジェクト、将来に向けた設備や人材に対する投資に影響を及ぼしたという。また、販売面でもインセンティブ(販売奨励金)に頼った短期的な販売増により、ブランド力や収益力の低下を引き起こしているが、これが典型的な事例であるとしている。

 この振り返りを元に、同日からスタートした自身と代表執行役兼最高執行責任者(COO)に就任したアシュワニ・グプタ氏、執行役 副COOに就任した関潤氏の3人を柱とする新しい経営体制で、議論を尽くして事業運営にあたっていくとコメント。大切にしている言葉は「尊重」「透明性」「信頼」の3つだと述べ、これまでにルノーの仲間やサプライヤーと進めてきた購買での経験や、中国 合弁会社の総裁を務める中でもこの3つの言葉の重要性を再確認。部下を信頼して権限委譲を進め、役員や従業員の全員が会社の方向性を自分のものとして捉えて取り組む「ONE TEAM」の風土を醸成。社員にとって透明性の高い業務運営を行なっていくと宣言した。

 さらに今後の日産では、ユーザーや販売会社、サプライヤーなど、社内外の声にも広く耳を傾け、意見を言い合って異論や反論が許される会社風土を作っていきたいと述べ、このような考え方が企業体質として浸透していくよう、日産社員の行動指針である「NISSAN WAY」の見直しも行なう考えを示した。

 新技術に対する取り組みでは「日産社員の持つ力は高い」としつつ、目標設定をする段階で現状の実力をしっかりと認識し、そこからどこまで頑張って伸ばしていけるかについて論議を尽くし、“納得してチャレンジできる目標”を設定することが非常に大事であるとの考えを示した。

 日産が現在取り組んでいる事業構造改革「NEW NISSAN TRANSFORMATION」について内田氏は、柱としている「米国事業の立て直し」「事業および投資効率の適正化」「新商品、新技術、『ニッサン インテリジェント モビリティ』を軸とした着実な成長」の3点について、その目的が効率化やリストラであるとの認識が広まっているが、事業構造改革で最も重要なのは「新商品、新技術、『ニッサン インテリジェント モビリティ』を軸とした着実な成長」で描く将来の成長戦略であると力説。計画に従ってしっかりと新車開発を進め、ユーザーに適正なタイミング、適正な価格で魅力的なクルマを提供し続ける体制を構築することが重要で、「お客さま第一」という考え方を日産の企業活動のすべてで根幹に戻すことだとした。

 また、内田氏はステージ上に置かれた2台の日産車についても言及。「フェアレディ Z 240Z」は半世紀前の発売当時にスポーツカー市場でブレイクスルーを起こし、先日行なわれた東京モーターショー 2019で世界初公開された「アリア コンセプト」は、SUVやEV(電気自動車)の枠組みに囚われない新しいクルマで、将来のモビリティを実現するブレイクスルーを提案するとしている。

 今後については、時代に先駆ける技術に挑戦を続けて日産ならではの価値をユーザーに提供し、将来のモビリティのあり方を提案してその実現に向けて取り組みを続け、従業員が日産で働くことに誇りを持てる会社を目指すとコメント。それによってユーザーが日産を信頼し、日産を好きになってもらうことにつながるとの考えを示した。従業員が持つ高い能力を1つにまとめ、会社としての大きな推進力を生み出していくことが社長としての自分の使命だとしている。

 このほか、12月1日付けでCOOに就任したグプタ氏、副COOに就任した関氏からのあいさつも行なわれた。

 グプタ氏は自身が27年間にわたり自動車業界で仕事を続け、会計、デザイン、もの作り、販売など多彩な分野でキャリアを重ねており、2006年からはルノー・日産・三菱自動車のアライアンス内でさまざまな役割を担当してきたことを説明。2019年4月から就任した三菱自動車のCOOに続く日産のCOO就任については「私にとって新しいチャレンジはいつでもウェルカムです」とコメント。自動車業界を取り巻く環境は、大きく、速く変化しており、これから直面するチャレンジは非常に大きなものになると語り、自分たちはこれから「脱グローバル化と地域化」の時代に入っているとした。

 自動運転やIoT化、コネクテッド化といった技術革新がユーザーにとってのクルマの価値を変化させているとの認識を示し、厳しい環境に置かれているものの、日産の業績を着実に回復させることが必要であり、事業構造改革で掲げる「販売の質の向上」「徹底した固定費削減」などを行なってコストの適正化を推進。変化を続ける自動車業界のトレンドに乗り遅れることのないよう素早い意思決定を意識していきたいとした。

 日産には歴史と技術、素晴らしい商品があり、なによりこれらを実現してきた経験と知識を備える社員が多数所属しており、この日産社員のポテンシャルを最大限に引き出していくことが自分の最初の仕事であり、日産の業績回復に向けた近道になるとの考えを示した。

 関氏は現任のパフォーマンスリカバリーに加え、商品企画、計画などを担当。33年前の入社時にエンジンを生産する横浜工場に配属され、それからの20年間で英国、北米などの出向を挟んで生産現場に携わり、もの作りの厳しさや難しさを身にしみて感じてきたと自身の経歴を紹介。一方、2007年からは企画、販売などの現場を歴任し、「売ることの難しさ」も経験してしてきているとコメント。

 現在の日産は、ものを作る現場、売る現場と経営層に大きな隔たりができてしまっており、この隔たりを少しでも近づけていく努力を内田CEO、グプタCOOと協力して取り組んでいきたいとしている。

 後半に行なわれた質疑応答で、新たに社長に就任した感想について質問され、内田氏は「日産は今、非常に厳しい環境にあります。従って、私はまず社長として覚悟を決めることが必要だと思っています。日産自動車は過去にもさまざまなブレイクスルーを達成して難局を乗り越えています。私は日産の従業員1人ひとりが持つ能力は非常に高いと思います。ただ、例えば『コミット&ターゲット』、この中のターゲットで本当にチャレンジできる目標に向けて進めてきたのかという点で、文化が若干歪んだ形になったとも考えられます。私は社員が課題に対して透明性を持って、われわれ経営層にも共有できる環境を作っていきたいと思いますし、経営層としてもそれをサポートして、社員と経営層のみならず、リージョン間のコミュニケーションも図って日産を前に進めていきたい。これが私に与えられた使命ですし、それをやる覚悟を持って社長になるということだと思います」と回答。

 自身の経歴でこれからの日産の舵取りに生かしていきたい要素についての質問では、「私は日産に入る以前は総合商社におりました。総合商社にいると白紙の上でビジネスを作り上げる経験が積めます。また、私はいろいろな環境においての順応性が自分の強みだと思っています。従って、今の日産の厳しい状況の中で、今までと同じように環境の変化、状況の変化に順応性を持って対応し、社員とのコミュニケーションを深め、サプライヤーさま、販売会社さま、お客さまの声をきちっと聞いて日産を強くしていきたい。もう少し言うなら、日産の社員が日産で働くことを誇りに思えるような会社にしていきたいと思っております」と答えている。

前経営陣によって策定された現在進行中の中期経営計画については、「中経については、われわれとしても置かれた状況に応じて将来的な中経を策定していく必要があると考えています。今、自動車業界の置かれている状況をふまえ、われわれが何をできるかということを、もう1度社内できちっと論議を重ねさせていただき、しかるべきタイミングで皆さんに対して説明していきたいと考えております」。

「ただ、中経の話に関連して、われわれは今の事業を見すえた中で、いわゆる固定費をどれだけ会社として見ていけるか。ここは重要なところだと思っています。これは前経営層でも着手していますし、これを引き継いでわれわれが各事業において最適な固定費を見ていく。合わせて将来に変動に合わせ、これから自動車業界が変わっていく中で、どう新車、新技術の分野を伸ばしていけるか。固定費は備えであって、それに対する将来の成長を新車軸でやっていく。この考え方は変わりません。これを進めていくことが、今後中経を見ていく中で最も重要だと思います」と回答した。

 なお、アライアンスの今後やルノーによる経営統合などについて複数の記者から質問が出たが、内田氏はこれまでの日産の立場を崩さず、アライアンスによって3社が利益を出していくことが重要で、お互いを尊重していくことが今後も必要だと強調している。