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東京モーターショー、次世代技術の攻防 トヨタ「エコカー全方位」揺るがず 日産やホンダは?
25日に東京モーターショーの会場で開かれたトヨタ自動車の報道陣向け説明会。ディディエ・ルロワ副社長は「世界での水素社会のニーズに応えたい」と、新型の燃料電池車(FCV)の試作車「ファイン-コンフォート・ライド」が初めてベールを脱いだ。
航続距離は、2014年に発売した世界初の量産FCV「ミライ」に比べて5割強伸ばし約1000キロ。水素を約3分で充填(じゅうてん)する利便性も売り。FCVを「究極のエコカー」と位置付け、全方位で次世代エコカーの開発を進める姿勢に揺るぎがないことを強調した。
EV、AI運転前面に
中国が19年から一定台数の新エネルギー車の生産を義務付けるなど各国で環境規制が強まる中、電気自動車(EV)をめぐる技術力のアピールでも火花が散った。
日産自動車は、新開発のEVプラットホーム(車台)を使った試作車を出展。座席の下部に平らな電池を配置することで、広い室内空間を実現した。航続距離は600キロで、今月2日に同社が発売した新型「リーフ」の1.5倍に伸ばした。同一の車台を用いてハッチバックやスポーツ用多目的車(SUV)などの多様な車種を効率的に量産できる態勢を整える。
ホンダも、新たに開発したEV専用の車台を採用した試作車を出展。都市部で取り回ししやすい小型車で、19年に欧州で発売するEVのベースになる。八郷隆弘社長は25日、「20年には日本で発売する」と表明した。
北海道美深町。シラカバの木々が立ち並ぶ広大な大地に、SUBARU(スバル)が新設したテストコースがある。スバル研究実験センター美深試験場内に約30億円かけて高速道路や市街地の交差点などを模したコースを再現。11月から、自動運転技術の開発に必要なデータの蓄積を進める。
高速道路を走行中にハンドル、アクセル、ブレーキを制御して前方車両を自動追従できる「アイサイト ツーリングアシスト」に関し、スバルの吉永泰之社長は「事故ゼロの実現と自動運転に向けた進化のワンステップだ」と力を込めた。
運転支援技術をめぐっては、モーターショーでも人工知能(AI)を活用した試作車の展示が目立った。
トヨタの「コンセプト・アイ」は、AIが運転手の表情や声などから心理状態を推定し、支援が必要な場合に自動運転に切り替える機能などを搭載した。
ホンダが世界で初公開した「スポーツEVコンセプト」も、車と一体になったような運転感覚を目指してAIを搭載。三菱自動車のSUVの試作車では、AIが運転者の技能を把握し、運転に関して助言する。
エコカーや運転技術などの革新は、新しい自動車の需要を掘り起こす可能性がある一方、日本の自動車産業にとって、これまでにない危機をもたらす可能性もある。昨秋に三菱UFJモルガン・スタンレー証券が出し、業界で話題となったリポート「非連続イノベーションが自動車産業に迫る100年ぶりの大変革」は「(自動車産業が)今後は大構造変革を迫られる可能性が高く、現在の覇者でも、その強みを維持できる保証はない」と指摘した。
なくなる参入障壁
約3万点の部品を緻密にすり合わせる車づくりの裾野は広く、自動車メーカーは部品メーカーとともに技術を進化させてきた。だが、動力がエンジンからモーターに代われば部品点数が減るとともに参入障壁がなくなり、すり合わせ技術という優位性が失われる懸念がある。米テスラ・モーターズといったEVメーカーだけでなく、グーグルやアップルなどの米IT大手も自動車関連の技術を磨き脅威となりつつある。
トヨタのルロワ副社長は「自動車の衝突回避技術が板金塗装の仕事を奪うなどビジネスモデルが大きく変わる」と予測する。「脱エンジン」が急速に進む中、「変化への危機感をいかにビジネスチャンスに変えるかが問われている」(三菱自動車の益子修最高経営責任者)。