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サラリーマン社長とは違うのだよ! トヨタ創業家 豊田章男社長の強みとは=児島康孝
トヨタの豊田章男社長が、パナソニックと事実上の提携をすると発表しました。水素自動車から電気自動車(EV)への大転換となる、ものすごい決断です。
大企業の方向転換は難しい。それでもトヨタが変化できる理由とは
トヨタ自動車 豊田章男社長の英断
米自動車メーカー・テスラが、時価総額が巨大になり、将来の巨大企業になるとみられている中、電気自動車(EV)の開発で出遅れ感があったトヨタ。
欧州や中国では、政府も絡んで、一気に電気自動車の時代へと進みそうな雲行きなのです。
一方、トヨタは、燃料電池車(水素自動車)の開発で先行していて、燃料電池が将来の本命とみているようでした。その分、トヨタは、電気自動車には冷ややかであったのです。
しかし水素発電が普及しても、自動車の中で燃焼させるか、別のところで大規模に水素発電をして電気の形で自動車に供給するかは、わかりません。むしろ、個々の自動車が水素をそのまま使うよりも、どこか別のところで発電して、電気を使う方が簡単で使いやすいわけです。
こうして、また日本企業が「家電」の二の舞になるのではないかと危惧されていました。
しかし今回、トヨタの豊田章男社長は、パナソニックとの事実上の提携を発表。一気に、電気自動車で巻き返す方向に打って出たのです。
大企業が抱えるジレンマ
大企業ほど、方向転換しにくい組織はありません。方向転換を行って失敗すると、通常のサラリーマン社長の場合はこれが責任問題となり、自身の進退につながるからです。
しかし、トヨタの豊田社長は、今回の事実上の提携の挨拶で、1925年にトヨタグループ創始者の豊田佐吉氏が、当時100万円の懸賞金をかけて蓄電池の開発を進めた話を引用しました(※当時の100万円は、豊田自動織機製作所の資本金にあたる、大きな金額とのこと)。
パナソニックの津賀社長との出会いを振り返りながら挨拶を続け、
私には、津賀社長と、佐吉(=豊田佐吉、創始者)記念館で出会ったときから、こうなることは必然であったのではないか、という気がしてなりません。
と、さらりと述べました。そして、「パナソニックと電池で組む」ことを明らかにしたのです。
これは、サラリーマン社長では言えない言葉です。よく言えば「臨機応変」、悪く言えば「朝令暮改」。
しかし、アメリカや中国の企業は決断が早く、アクティブで、ベンチャーも巨大化しています。こうした中で、今回の豊田社長の素早い決断は高く評価されます。
「創業家社長」にしかできないことがある
「創業家」の社長は、他所から良く言われることも、悪く言われることもあります。
ただし、「はっきりモノが言える」という部分では、良い方向に機能するのです。昔、私が経済記者をしていた頃に、ある銀行の創業頭取を取材したことがあるのですが、この方も、非常にビジョンがしっかりしていました。つまり、サラリーマン社長では、普通なら保身に走るところが、「創業家」社長はそうではないのです。
思い返せば、豊田章男社長は、2010年頃にアメリカでリコール問題が大騒動になったとき、自ら議会の公聴会にのぞみました。対応を誤れば会社の存続さえ揺るがす事態ですが、自ら厳しいアメリカの議会にのぞんだわけです。
逃げない「創業家」社長で、アメリカをよく知っている豊田章男社長が「大転換期」に社長に就任していたことで、トヨタ自動車はうまく変化に対応したのかもしれません。