ITmediaビジネスONLINE
トヨタとパナソニックの提携 ハイブリッドの未来
12月13日、トヨタ自動車は緊急記者会見を開き、パナソニックとの車載用角形電池事業の協業検討開始を発表した。
トヨタの豊田章男社長は記者会見で以下のように発言した。
「現在、私どもが直面しております温暖化や大気汚染、資源・エネルギー問題といった地球規模での課題を解決していくためには、電動車をより一層、普及させることが必要となってまいります。
そのためにも、電動車の重要な基幹部品である車載用電池について、性能・価格・安全性などの面での更なる進化と安定供給能力の確保が喫緊の課題と言えます。
こうした認識のもと、両社は、車載用角形リチウム、全固体など次世代電池の取り組みに加え、その電池の資源調達やリユース・リサイクルなども含めて、幅広く、具体的な協業の内容を検討してまいります」
混乱の元である「電動車」とは何か?
少々補足しよう。ここで言う「電動車」は何も電気自動車(EV)に限らない。諸所で誤解と混乱を引き起こしている言葉だが、電動車が指すのはEVだけではなく、プリウスなどのストロングハイブリッド(HV)もあればプリウスPHV(PHV)のようなプラグインハイブリッドもある。あるいは、スズキのSエネチャージのようなマイルドハイブリッド(MHV)も含まれる。要するに、モーターオンリー動力に限らず、エンジンと協働するモーター動力を持っていればそれが補助的なものであろうとも電動車である。より正確に言えばモーター単体で走行する能力を持つクルマを指す場合、本来ストロングハイブリッドと言うが、ハイブリッドの代表となったプリウスがストロングハイブリッドだったため、断りなくハイブリッドと言う場合はストロングハイブリッドを指す。逆にモーター単体では走れず、あくまでもエンジンの補助に徹するタイプをマイルドハイブリッドと言う。
既に欧州系の数社が、2~3年以内に「すべてのモデルを電動化する」という発表をしており、「エンジンの生産中止」と誤解するケースも多々見られるが、これは前述の通り、HV、PHV、MHVを含む見通しであり、実際「2019年にエンジンの生産中止」と市場に受け止められたボルボの内部予測を聞いてみると「生産台数の8割はマイルドハイブリッド」というのが実情である。
トヨタによれば、2030年ごろの見通しでは、HVとPHVが450万台(言及はないが恐らくMHVも含むだろう)。EVが100万台であり、年産1000万台のトヨタの場合、これでようやく過半に達する。「電動車」の累計生産でも、年次の生産台数でも、他を大きく引き離してリードしているトヨタでそうだとすると、自動車全体で見てEVが半数に達するのは驚異的な伸びを見せても40年以降と考えるのが順当だろう。
しかし、切実な問題として、HVだろうがPHVだろうがEVだろうが、従来の補機用バッテリーより大容量のバッテリーを必要とする。トヨタだけでも合計で550万台に達する上、他メーカーでも概ね同様の流れになるとすれば、バッテリーの需要のひっ迫は免れない。しかも、性能・価格・安全性の面でも十分とは言えないバッテリーの能力向上も重大な課題である。
世界中の自動車メーカーはこれから性能向上の競争だけでなく、壮絶なバッテリーの争奪戦に突入することになるだろう。性能向上(技術力)と安定供給能力(生産能力)の両面を重視するなら、現状で最も安定感があるサプライヤーはパナソニックということになる。
トヨタとパナソニックはバッテリー領域だけでも既に20年にわたるパートナー関係であり、サプライヤーとしては、1953年の車載ラジオのノイズ防止技術から取引が始まった長い付き合いがある。
パナソニックの生き残り戦略
一方、パナソニックは三洋電機の取引を受け継ぎ、2011年からはテスラとの協業関係を築いている。今年1月にはギガファクトリーの建設運営に乗り出し、関係性を深めてきた。テスラは既にEVの代名詞となっており、出荷台数も急伸している。とはいえ、その生産台数は現状年産7.5万台程度。トヨタの1000万台とは比べるまでもないが、国内で最もグローバル生産台数が少ないスバルと三菱自動車が100万台であることと比べても10分の1にも満たずプレゼンスの不足は拭えない。
仮に数年後、スバルや三菱の半数が電動化したとしたら、その時点でのテスラの出荷台数を上回る可能性は十分にある。トヨタにおいては何をか言わんやである。パナソニックは、かつて提携を模索していたテスラとトヨタとの関係をテコにトヨタへのバッテリー納入を狙っていたと推測する向きもあったが、結果的に見ればトヨタはテスラの株式を手放し、関係は解消されてしまった。
電機メーカーは家電の崩壊によって、それぞれ生き残り戦略を立て、選択と集中を企図した。パナソニックの場合それは車載用バッテリーを含む自動車関連技術である。パナソニックにとって、テスラは今この瞬間、生命線とも言える大事な顧客だが、中長期で見たとき、社運を託すに足りるかどうかは何とも言えない。既にハイブリッドの累計生産で1100万台の実績を誇るトヨタとのパートナーシップはその未来を明るくするために最も可能性の高いオプションである。
パナソニックはトリッキーなハンドリングで、テスラとトヨタを両立させたように見える。もちろんそれはこれからの舵取りに負う部分は大きいし、モデル3の納品の大幅な遅れで、量産技術の不足が露呈しつつあるテスラの舵取りにも影響を受ける。もちろんトヨタが予定通り電動車を拡販できるかどうかにもよる。そうした混沌の中で選択された未来が、今回のトヨタとパナソニックの提携交渉開始の記者会見である。
なぜ角形なのか?
さて技術の話に移ろう。今回の発表でことさらに「角形」が強調されたのはなぜだろうか?
実はパナソニックがこれまでテスラに納入してきた電池は18650と呼ばれる直径18mm、長さ650mmの筒状の汎用バッテリーで、形状としてはほぼ乾電池だ。テスラの場合、これを床下に大量に立てて並べてバッテリーパックとする。並べる本数を変えれば容量は可変にできる。
ある空間に対して、円筒を並べれば必ず無駄な空間ができる。動力用のバッテリーの場合、冷却が必須なので、隙間は冷却用に活用されるとはいうものの、冷却の効率を考えれば、隙間形状が設計の自由度を束縛する。バッテリーのコンパクト化にとっても、冷却性能にとっても足かせになるのは事実である。
一方でバッテリー単体の問題で言えば、乾電池の形状がほぼ円筒形一択であったことからも分かるように、円筒が最も効率が高い。円筒軸に形成される中心電極と、円筒の外壁に形成される側方電極の関係は、どこも幾何的に等距離で無理がない。これを四角くしようとすると対角線上では距離が増え、辺の垂線部分では短くなる。化学変化が均等に起きなくなる可能性が高い。これを構造的に防ぎたければ補機用のバッテリーのように陰極と陽極を交互に配置したミルフィーユ構造にするしかないが、構造が複雑になる分、コストが激増する。
一概にどちらが良いとは言えないが、円筒型を推せばユーザーにとってパッケージ効率の悪いクルマになる。だから形状の方をエンジニアリングでブレークスルーしようというのが今回の取り組みで、体積や重量あたりエネルギー量で化石燃料に対してまったく勝負にならないバッテリーの競争力を少しでも高めようという取り組みだ。
トヨタアライアンスの中で、現在鋭意進行中のEV計画以上に、このバッテリーのコンパクト化が効いてくるのは、既存のエンジン搭載モデルに付与する形で作られるMHVモデルである。クルマのパッケージは既にできており、これに対して、モーターとECU(エンジンコントロールユニット)とバッテリーを追加する形になる。設計の段階で織り込まれていない部品を追加するのであれば小型であるにしくはない。
もちろんスペース効率の向上は大量にバッテリーを搭載するEVにとっても意味は大きい。スペースを先に決めれば航続距離が伸びるし、航続距離を先に決めれば、室内スペースが大きくできる。
当然、希土類や重金属の使用量を減らす努力もなされるだろう。それは資源調達を容易にし、かつ価格低減に有効なだけでなく、使用後のバッテリーのリサイクルコストにも影響してくる。ただバッテリーを作るというだけでなく、そのライフタイムで負担を軽くすることを考えなければ電動化の時代に生き残れない。