プレゼンテーション「トヨタとパナソニックが車載用角形電池事業の協業について検討を開始」

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トヨタとパナソニックが車載用角形電池事業の協業について検討を開始

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トヨタとパナソニック、“業界ナンバーワンの車載用角形電池を目指す”新たな協業について記者会見 「日本で生まれ育った両社が電動化の時代をリードしていく」と豊田社長

 トヨタ自動車とパナソニックは12月13日、車載用角形電池事業について協業の可能性を検討することに合意したと発表。同日に都内で共同記者会見を開催した。なお、発表内容については関連記事「トヨタとパナソニック、車載用角形電池事業について協業の可能性検討について合意。全個体電池についても言及」を参照していただきたい。

 冒頭の挨拶で、トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏は「現在、私どもが直面しております温暖化や大気汚染、資源・エネルギー問題といった地球規模での課題を解決していくためには、電動車をより普及させていく必要があります。そのためにも、電動車の重要な基幹部品である車載用電池について、性能、価格、安全性などの面でのさらなる進化と安定供給能力の確保が喫緊の課題と言えます」と語り、今回の協業検討の理由について解説。

 また、「こうした認識のもと、両社は車載用角形リチウム、全固体などの次世代電池の取り組みに加え、電池の資源調達やリユース、リサイクルなども含めて、幅広く具体的な協業の内容を検討してまいります」と述べ、車載用のバッテリーについてより広範な取り組みを進めていく考えを明らかにした。

 これに加えて豊田氏は、「トヨタと電池の関わりは深く、1925年までさかのぼります。トヨタグループの創始者である豊田佐吉は当時の金額で100万円の懸賞を掛け、蓄電池の開発を奨励いたしました。その翌年である1926年に設立された豊田自動織機製作所の資本金が100万円でしたので、当時としては大変な金額となります。開発を奨励した蓄電池は『100馬力で36時間運転を持続することができ、重さは225kg、容積は280Lを超えず、工業的に実施できる』という内容でした。これが『佐吉電池』と呼ばれるものですが、今でもここまでの性能を持つ電池は開発できておりません。佐吉は今日のような『電動化時代』の到来を予見していたのかもしれません」。

「当時から90年以上が経過した2013年、私は静岡県湖西市にある『豊田佐吉記念館』である方をお迎えしました。今、私の隣におられる津賀社長です。社長に就任された1年後に、私どもの原点とも言える佐吉記念館にご訪問いただきました。いろいろなお話をしながら館内をご案内させていただいたのですが、津賀社長の表情や姿勢、言葉の端々から創業への思い、国への思い、そして会社を継承する者としての覚悟がひしひしと伝わってまいりました。そのときから4年の月日が流れ、本日、皆さまの前で車載用電池の開発というテーマでの協業を発表させていただく運びとなりました。私には、津賀社長と佐吉記念館で出会ったときから、こうなることが必然であったのではないかという気がしてなりません」。

「今、自動車業界は100年に1度と言われる大変革の時代に直面しております。もはや、これまでの延長線上に未来はない、自分たちの知恵と技術によって未来を創造しなければならない時代に入ったと認識しております。未来を創造するために必要なものは、『世の中をもっとよくしたい』というベンチャー精神と、『もっといいやり方がある、もっといい技術がある』という『ベターベターの精神』だと思うのです」。

「パナソニックさんには、長年にわたって積み重ねて来られた車載用電池で業界ナンバーワンの開発力があります。そしてトヨタには、ハイブリッドカーの開発で培った電動化技術に加えて、クルマへの愛、クルマを絶対にコモディティ化しないという決意があります。さらに申し上げると、両社には松下幸之助翁、豊田佐吉、豊田喜一郎という、日本という国の発展に人生を捧げた偉大なる発明家、起業家から継承してきたベンチャー精神があります。本日、私が皆さまにお伝えしたかったのは、両社の提携は今よりももっと豊かで、もっと楽しいモビリティ社会を実現するための提携であり、日本で生まれ育った両社が電動化の時代をリードしていくという思いを形にしたものだということです。皆さまの温かいご支援を賜わりますようお願い申し上げます」とコメント。今回の提携に込めた思いについて説明した。

 続いて挨拶したパナソニック 代表取締役社長の津賀一宏氏は「我々の創業者である松下幸之助は、『事業をつうじて世界中の皆さまの暮らしの向上と社会の発展に貢献する』という基本理念を掲げて当社を発展させてまいりました。我々はこの理念を引き継ぎ、現在は『A Better Life, A Better World』というスローガンとして掲げ、家電に止まらず、『住宅』クルマ関連の『車載』、ソリューションなどの『BtoB』という幅広い領域で、1人ひとりのお客さまによりよい暮らし、よりよい世界の実現を目指しております」。

「自動車産業では電動車の立ち上がりにより、取り巻く環境が激変し、産業自体としても大きく変わろうとしています。加えて、世界の国々でも積極的な動きが見られるのはご承知のとおりであります。まさに、我々が掲げる『A Better Life, A Better World』という視点では、よりよい暮らしを得るためには、よりよい社会を実現しなければならない。この2つが切っても切り離せない関係として、高い次元のソリューションが求められる時代が自動車産業に来ていると思います」。

「そうなると、電池は電動車普及とその先にあるサステナブルな社会の進化に向けて、鍵を握るデバイスであり、我々パナソニックにとっても大変重要な事業になります。こうした背景のもと、我々は自動車メーカー様との連携を強化しながら、開発から生産までさまざまな手を進めております。そして今回、トヨタ様からお声がけをいただき、その高い志に大いに共感して協業の検討開始を決断いたしました。トヨタ様からのご期待にしっかりとお応えし、両社でスピード感を持って検討を進め、実効性のある枠組みになればと思っております」。

「パナソニックは来年、創業100周年を迎えます。しかし、クルマの電動化に伴う自動車産業の変革の動きに見られますように、次の100年はこれまでの100年とは比べものにならないほど変化の激しい時代になると思っております。そうしたなかで、現状を守ろうとするだけでは生き残ることはできません。従ってパナソニックは、培ってまいりました強みを生かしながらも、チャレンジャーとしてのマインドを持って電動車の普及に少しでも貢献してまいりたいと思っております、ぜひご期待いただければと思います」とコメント。次の100年を見据えた生き残りに向け、新たな電池開発に取り組む姿勢を示した。

トヨタは2030年ごろに550万台の電動車両を販売。安定供給も協業の大きな目的

 共同記者会見の後半に行なわれた質疑応答では、トヨタとパナソニックはPEVE(プライムアースEVエナジー。創業当時はパナソニックEVエナジー)ですでに20年近く協業しており、これまでの関係で感じている双方の印象について問われ、津賀氏は「私も社外監査役としてPEVEの経営を見させていただきましたが、ひと言で言うと大変真面目で、社会への貢献ということを考えている会社がトヨタ自動車様であり、その1つの証がPEVEであると思います。実際に、電池製作の設備投資1つを見ても、いかにしっかりとした設備で品質よく作るのか、というところに大変見習うところがありました。そして『今回なぜ?』という部分ですが、我々は車載用電池という意味では、すでに蓄積を重ねてきた円筒型電池というものがあります。しかし、これからどこにチャレンジするのかということで、今回の協業で対象となる角形電池というところに、ぜひ新たなチャレンジをしたいという思いがあり、トヨタ様といっしょにチャレンジしたいという思いで今回の決断に至った次第です」と回答。

 また、豊田氏は「パナソニックさんとは、実は65年にもわたるお取引をさせていただいております。一番最初は、1953年の車載用ラジオですかね。ラジオのノイズ防止から始まり、津賀社長おっしゃったようにPEVEでの20年を超える協業もやってきました」。

「私は社長になってから『もっといいクルマを造ろうよ』と言い続けているのですが、クルマに電動化といった100年に1度の大変革があるなかで、自動車会社だけでのもっといいクルマ造りに、電池専門メーカーと協力してもっといいクルマ造りをする必要が出てきたということで、自動車メーカーのノウハウと電池メーカーのノウハウを融合してもっといいクルマにしていきたいという考えがベースにあります」と答えた。

 さらに豊田氏は、車載用角形電池の開発は2社だけでクローズすることなく、これまでにアライアンスを構築してきたほかの自動車メーカーなどにも幅広く参加してもらい、電動車普及に向けて貢献していきたいとしている。

 記者からの質問で、近年は欧州メーカーを中心に車両電動化の目標を具体的に示すケースが増えているが、トヨタでも何かしらの具体的なイメージを持っているのかといった問いかけもあり、豊田氏は「自動車メーカーは地球温暖化や資源、エネルギー問題などに直面しており、各社で問題解決に向けていろいろと取り組んでるのですが、それは『守らなければならないルール』が2つあるという風に考えています。1つは『ZEV規制』、ゼロエミッションビークル規制、もう1つは『燃費規制』ですね。私どもはZEV規制にはEVとFCVで対応し、燃費規制にはハイブリッドとプラグインハイブリッドで対応していこうと思っています」。

「昨今はZEV規制が話題になっていますが、台数規模では燃費規制の方が圧倒的に大きなもので、トヨタは長年にわたりハイブリッドをやってきたこと、そしてEV、FCV、ハイブリッド、PHVという、言わば電動化のフルラインメーカーであるということが優位性になると思っています。具体的な台数イメージでは、2030年ごろには全販売台数の約50%ぐらいが電動車両になり、この電動車両というのはEV、FCV、ハイブリッド、PHVを総称したものとご理解いただきたいのですが、内訳ではEVとFCVが約100万台、ハイブリッドとPHVが約450万台。合計で550万台の電動車両を販売するイメージと考えております」。

「トヨタは電動車のフルラインメーカーであり、これだけの台数を支えていくためにも、車載用電池の性能アップと安定供給が必要不可欠になると思っております。さらに電池のリユースやリサイクルも含めたトータルの仕組みを構築しなければ『地球に優しい』とは言えないんじゃないでしょうか。今回の提携により、こうした電動化のシナリオ実現が可能になるとも思っておりますし、可能にできるよう協力してやっていきたいと思います」と回答。EVやFCVだけでなく、ハイブリッドカーやPHVでも新しい協業を推進していく必要があるとの見解を示した。

 このほか、今回の発表で「角形」という表現が強調されているのは、パナソニックが行なっている円筒形電池でのテスラモーターズとの協業と異なるものであること強調する意図があるのかとの質問も出たが、これに対して津賀氏は「まず、冒頭でも少し申し上げたように、やっぱりナンバーワンの電池を造らないと生き残っていけないんです。ただ、『ナンバーワンの電池』というのは時間軸によっても答えが変わってきます。私の理解では、今、EVという視点だけに絞ってナンバーワンの電池と言えば、我々の『18650』や『2170』と呼ばれる円筒形の電池で、それをテスラ様には使ってもらっています。それが『今』です」。

「しかし、将来を見たときにどこに伸びしろがあるのか、また、とくに既存のカーメーカーが電動化を進めるときに欲しい電池が何なのかというのは別の答えになるんですね。それが『角形』という言葉で言い表わしているもので、これは新しいチャレンジで、角形のなかに高容量なものを安全に入れていく。そしてクルマの設計が非常にしやすい形にしていくことがまさにチャレンジだと思っていて、これを単独では実現できません。これがあえて『角形』と言っているところだとご理解いただければと思います」と回答した。

 質問の最後に、トヨタが「2020年代前半の実用化を目指す」としている全固体電池について質問され、これに津賀氏は「マスコミ報道をつうじてトヨタ様が全固体電池の早期実用化をしたいという思いを持っていることは存じ上げていて、今回の協業の事前の話し合いでも伺っています。しかし、勝手な立場から言わせていただければ、一気に全固体電池にシフトできるのであれば、我々が今までしてきた投資は投資倒れになってしまいます。世の中、そう簡単には全体が全固体電池に行くというものではないし、少なくとも我々の知見ではそう思っています」。

「しかし、我々も全固体電池の研究を進めておりますし、トヨタさんが我々以上に進めていることもよく知っております。そしてリチウムイオン電池に限界が来るということも分かっておりますので、その限界が来る時期までには全固体電池へのシフトをしっかり実現できる準備をしたいというのが我々の気持ちであり、それが5年先なのか、10年先なのかは少し分かりませんが、それまでには準備したい。そのためには単独でやるより、この部分も協業のアイテムに入ればと思っております」と回答。全固体電池も両社で取り組み、研究を進めていく意気込みを口にした。