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HV王者のトヨタがEVにアクセル踏み込む理由 2020年代前半に世界で10車種以上のEV販売
HV(ハイブリッド車)で圧倒的な世界シェアを誇るトヨタ自動車も、急速に進むEV(電気自動車)シフトには焦りと危機感を隠せなかった。
トヨタは12月18日、2025年頃までにエンジン車だけの車種をゼロにする「電動車普及に向けたチャレンジ」を公表。世界で販売する全車種をEVやHV、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)など電動専用車もしくは電動車を選べるようにする方針だ。そのうえで、2030年にはこうした電動車両を全販売台数の半分以上の年間550万台以上、そのうち排ガスを全く出さないEVとFCVは合わせて100万台以上の販売を目指す。
EVを大型車にも展開へ
今回の「チャレンジ」で特徴的なのは欧米勢と比べて距離を置いてきたEVシフトを加速する方針を示したことだ。この日、EVについて2020年以降の中国を皮切りに、日本やインド、米国、欧州でも順次導入し、2020年代前半にグローバルで10車種以上に拡大すると発表。トヨタはこれまでEVを近距離移動に用いる超小型車程度に位置づけてきたが、この日会見した寺師茂樹副社長は「社会が変化し商品ニーズが多様化している。従来の枠組みにとらわれずにやることが大事」と指摘。EVでも小型車から大型車まで含めて品ぞろえする方針を説明し、実質的に方針転換する。
トヨタは2050年にガソリン車をゼロにする方針を2015年に示していたが、将来の具体的な目標数字を明言するのは異例。数字が一人歩きして目標ありきになることを避けたい豊田章男社長の“数字嫌い”が強いため、世界でEVシフトが加速する中でも、大手自動車メーカーでトヨタだけ具体的な経営目標を明示していなかった。
それでもトヨタは「EVには出遅れていない。電動車両では世界一だ。これまで培ったHV技術はEVにも活用できる」(幹部)と何度も説明してきたが、実際の商品がない中では説得力がなかった。
一方、日産自動車は早くからEVに着手。2010年に発売し、今年10月に初めて全面刷新した「リーフ」の累計販売は30万台に迫る勢いで世界トップだ。昨年ルノー・日産アライアンスに加わった三菱自は2009年に世界初の量産型EV「アイ・ミーブ」を発売し、ルノーもEV「ゾエ」が欧州で最も売れており、3社のEVの累計販売は50万台を超える。
米EVメーカーのテスラは普及価格帯に初めて投入した「モデル3」の納車を今夏から開始。同社は2018年にEV年産50万台を見込む。中国は国策としてEVメーカーの育成を進め、BYDなど新興勢力の台頭が著しい。
最近では、各国の環境規制強化を受け、海外メーカーはEVシフトを次々と打ち出している。自動車大手でEVシフトを最も鮮明にしている独フォルクスワーゲン(VW)はEV専用プラットフォーム「MEB」の開発を進めるとともに、2025年までにEVだけで50車種を投入する方針を2017年秋に公表。EVとプラグインハイブリッド車(PHV)で30車種としていた従来計画から一段とEVへアクセルを踏み込んできた。VWのマティアス・ミュラー会長は「自動車業界の改革を主導する」と宣言。2016年の新車販売台数でトヨタを抜いて初めて世界トップに立ったが、EVでも先頭を走る狙いだ。
独勢がEVシフトの流れを作り出す
VWだけではない。“ジャーマン3”と呼ばれるドイツ勢は意気軒昂だ。独ダイムラーは高級車「メルセデス・ベンツ」でEV専用ブランド「EQ」を立ち上げた。すでにAクラスのEV「EQA」を公開しており、将来は小型車から大型車まで全車種で電動化車両を選べるようにする。
独BMWも「MINI」ブランドのEVを2019年に投入するなどして、2025年までにEVを12車種に広げる。EVでは「i3」を2013年に発売しており、ハラルド・クルーガー会長は「われわれはEVのパイオニアだ。『iシリーズ』で培った技術の多くを転用できる。今後も野心的な目標を設定し続ける」と鼻息が荒い。このほか、スウェーデンのボルボ・カーが2019年以降、英ジャガー・ランドローバーも2020年以降に発売する新型車をすべて電動化するとしている。
欧州勢が活発に動く中、トヨタがEV化を打ち出せなかった理由の一つが、コストの多くを占める車載用電池への不安だった。だが、先日のパナソニックとの提携でその心配が薄れた。寺師副社長は「パナソニックとの提携で、電動化で唯一欠けていた最後のピースがそろった。これでようやく電動車の絵が描けるようになった」と話す。さらに、「EVの電池容量はHVの50倍以上もあり、電池はキーファクターだ。開発、生産への思い切った投資が必要で、2030年までに電池だけで1.5兆円を投資する」と意気込む。
「競争力ある電池開発は単独では困難」
今回、パナソニックとの提携はトヨタから打診した。先日のパナソニックとの会見で豊田社長は「電動化のカギを握るのは電池だ。競争力ある電池を開発して安定供給することが大事」としたうえで、「単独の努力では解決できない。パナソニックは車載用電池のリーディングカンパニーで、ものづくりに対する創業以来の強い情熱がある」と持ち上げた。
トヨタはこれまでモーター、パワーコントロールユニット(PCU)、電池を”三種の神器”と位置づけ、内製化を基本にしてきた。電池へのこだわりは強く、グループの祖である豊田佐吉氏が1925年に革新的な電池の発明に100万円の懸賞金を出すとした「佐吉電池」への思いを会見で語ったほどだ。実際、航続距離が大幅に伸ばせる次世代の「全固体電池」も2020年代前半の電動車両への搭載を目指し自社開発してきた。だが、ここでもパナソニックとの協業を検討する。
これまでトヨタは「上から目線でアライアンスが下手」(豊田社長)として自前主義が強かった。だが、最近はEVを軸に矢継ぎ早の外部連携を発表している。マツダとデンソーとはEVの共通モジュールを開発する新会社を9月に設立した。スズキともインドでのEV事業で提携検討することで11月に合意。スズキが生産するEVにトヨタが技術的支援を行い、その車両をトヨタへ供給する。パナソニックとの協業による車載電池でもマツダやスズキなどを巻き込み“日の丸連合”で対抗したい考えだ。
「来年は攻めに転じたい」と話した寺師副社長。「石橋を叩いて壊す」と揶揄されるほど慎重なトヨタだが、世界でEVシフトが加速する中、大きな変革を迫られている。