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トヨタの本気、B2B電気自動車「e-Palette」が凄いと言われる理由 —— アマゾン、Uber、中国DiDiが参画:CES2018
1月8日(現地時間)、トヨタ自動車は、米ラスベガスで開催されるテクノロジーイベント「CES 2018」の開催に先立ち、プレスカンファレンスを開催した。同社の豊田章男社長が壇上に立ってプレゼンテーションしたのが、トヨタの新しい電気自動車(EV)である「e-Palette Concept」だ。その内容を精査すると、このEVはトヨタが「EVが普及した社会」を綿密に分析して作られた、きわめて先鋭的かつ野心的な計画であることが見えてくる。
トヨタの本気を感じる「B2B電気自動車」のビジネス構想
CESは、かつては「家電見本市」だった。時は流れて現在はテクノロジーの総合展示会であり、中でも自動車は重要なポジションになっている。EVと自動運転を軸に、IT産業と自動車の境目が、非常に小さなものになってきているからだ。
トヨタもEVと自動運転を軸に数年前から出展しているが、一方で他社との戦略の違いを打ち出せるレベルにはなかった。トヨタも他社と同様にコンセプトをアピールする段階だな……というのが、筆者の偽らざる感想だ。
ところが、CES 2018の発表会見でトヨタが打ち出したのは、これまでとは少々趣の異なるものだった。それが「e-Palette Concept」だ。
e-Paletteは、個人向けのEVではなく、法人(B2B)マーケットを想定したEVだ。ボディは低床かつ真四角でバンのようなイメージ。コンパクトな業務用EVとしてみれば、洗練されてはいるが特段変わったデザインではない。
しかし、その想定範囲は、移動・物流・物販と非常に幅広い(用途に応じ、パレットのように姿を変えられるものだから「e-Palette」だ)。使い方が自在に変わるため、デザインもあえてシンプルなのだ。
例えば、コミュニティバスのような小規模公共交通向けでは、中に人が乗れるようにする。宅配便などの配送用では、荷物が多く載せられるように中をシンプルに。移動店舗にするなら、商品陳列用に棚を配置する。ケータリングなどなら、中にキッチンが必要になるだろう。「移動オフィス」にしたり、(開催地のラスベガスのような場所では)「移動カジノ」にしたりもできる。
e-Paletteは用途に応じて姿を変える。「中」のビジネス化は自由だ
e-Paletteの利用例。あるときはカジノに
あるときはECと組み合わせたシューズ販売車両に
ウィンドウは液晶表示機能も持っている
自動運転を前提としたEVでは、運転席などを設ける必要がなくなるため、車内の構造がとてもシンプルになる。要は「箱」なので、そこを自由に入れ替えて使う、という発想だ。ボディーは液晶画面で覆われており、用途に応じて表示が変わるのは、デザインによって用途の変化をわかりやすくするための工夫だ。
トヨタのEVを使ったB2Bビジネスの鍵は「オープン」
これだけなら、いかにも良くあるEVのコンセプト発表、ということになる。だが、トヨタはこれを本気でビジネス化しようとしている。
「e-Paletteはオープンであり、様々な事業者と連携する。ライドシェアやモバイル・リテイラーともつながり、姿を変えながら活用できる」と、豊田社長は説明する。
従来から業務用のバンは、中を自由に作り込んで、様々な業務に応用できた。しかしそれはあくまで「外観」にとどまっている。例えば、運転可能な人を管理する、利用距離や利用状況を把握する、といった「人と働き方」に関わる部分まで自動化などの形で踏み込めるわけではなかった。極端な話、朝は公共交通に使い、昼はケータリングに使い、夜はライドシェアに使う、といったことはできないわけだ。
一方e-Paletteでは、車両のコントロールはもちろん、運行管理やカギの管理、稼働状況などがすべてトヨタのクラウドサービスで統合管理されている。
重要なのは、すべてをトヨタが提供するわけでなく、「車両に関わる部分はトヨタが提供し、自動運転を前提としたサービスは他社と連携する」という考えが前提にあることだ。
ライドシェアやレンタカー、タクシーに行政機関、量販など、他業種のネットワークサービスとAPIを介して連携し、それらの企業が自社が主導してビジネスを回せる。トヨタ側も、自らが得意とする車両とその管理に開発を集中できる。だからこそ、同じ車両を使いつつ、ネットワークサービスを介して用途を適切に切り換えていくことができるし、それら業務の効率化にもつながるのである。
アマゾン、Uberなど大手パートナー参画で狙う「ビジネスプラットフォーム」
トヨタは2020年の東京オリンピック・パラリンピックでこの車両の運行を予定している。また同時期には、北米を中心とした地域での実証的サービスを開始するという。
トヨタの本気度は、実証に向けたパートナーとして、すでに強力な企業の賛同を得ていることだ。物流ではアマゾンが、ライドシェアではUberと中国大手の滴滴出行(Didi Chuxing)、ケータリングではPizza Hutの名が挙げられた。Uberと滴滴は技術パートナーでもある。さらに国産自動車メーカーのマツダは、ロータリーエンジンを使ったEV向け発電機分野で、同様に技術パートナーとしてこの計画に参加する。
発表会の冒頭、豊田社長は次のように語った。
「もはや我々のライバルは自動車メーカーだけではない。アップルやグーグル、フェースブックなども強力なライバル。ソフトウエアの技術が非常に重要になる」
これは、自動運転だけを指した言葉ではない。e-Paletteのような技術は、まさにプラットフォームビジネスであり、IT企業のホームグラウンドといえる部分だ。そこに、トヨタが切り込んで行く。
EVについては、自家用車よりもB2Bでの普及が先行する、と言われている。自動車の買い換えサイクルや充電設備の普及など、自家用車には様々な社会的要因が必須だ。一方のB2Bマーケットでは、業務改善のための投資としてインフラ整備と車両の買い換えを進められるため有利なのだ。
しかしB2Bならば、単に車両を出すだけでなく、業務システムとして活用した際のメリットが重要になる。トヨタがe-Paletteで狙うのはそこであり、まさにプラットフォームビジネスが最大の価値を持つ部分とも言える。同社は車両を超えたビジネス戦略を、今回のCES 2018で打ち出したことになるのだ。