Car Watch
トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏、副社長 寺師茂樹氏、副社長 小林耕士氏、専務役員 白柳正義氏が出席した2018年3月期決算記者会見
自動車会社からモビリティ・カンパニーにフルモデルチェンジ
トヨタ自動車は5月9日、2018年3月期(2017年4月1日~2018年3月31日)の通期決算内容、ならびに2019年3月期の見通しに関する決算説明会を東京本社で開催した。
2018年3月期の売上高は29兆3795億1000万円(前年比6.5%増)、営業利益2兆3998億6200万円(同20.3%増)、当期純利益は2兆4938億8300万円(同36.2%増)で増収・増益となった。連結販売台数は、日本国内では1万9000台減の225万5000台、海外市場全体では1万2000台増の670万9000台で、全体では7万台減の896万4000台となっている。
次年度となる2019年3月期の見通しでは、連結販売台数で前期比1万4000台減の895万台を想定。連結決算では為替レートを米ドル105円(前期は111円)、ユーロ130円(前期と変わらず)に設定。売上高は29兆円(前期比3795億円減)、営業利益は2兆3000億円(同998億円減)、当期純利益は2兆1200億円(同3739億円減)を見込んでいる。
決算説明会ではトヨタ自動車 専務役員の白柳正義氏が決算内容について解説。2兆4938億8300万円となった当期純利益には、米国で行なわれた税制改正によるおよそ2500億円分の増益影響が含まれており、主に法人税率の低下に伴って米国にある金融子会社が、リース車両の加速度償却によって計上していた繰り延べ税金負債を取り崩したことの影響と白柳氏は説明した。
前年比で4054億円増の2兆3998億6200万円となった営業利益の増減要因では、為替で米ドルが3円の円安、ユーロが11円の円安に推移したこと、原材料市況の上昇を上まわる原価改善の努力が行なわれたこと、品質改善費用が減少したことなどが増益要因となり、北米での販売報奨金が増加したことなどの減益要因と合わせても営業利益増となった。また、第3四半期時点での見通しと比較して1800億円の収益改善が進捗しているという。
所在地別の営業利益は、日本市場では「プリウス」「シエンタ」などの販売減で前年比1万9000台減の225万5000台を販売。一方で営業利益は為替変動の影響に加え、モデル切り替え時の原価改善努力、営業面での努力などによって1兆6618億円(前年比4557億円増)となった。
北米市場では「RAV4」などのSUVが引き続き好調だったが、「カローラ」などの乗用系車種で台数が減少して前年比3万1000台減の280万6000台を販売。営業利益は前年比1987億円減の1321億円で、主に「カムリ」の販売切り替え時に日本でのバックアップ生産を行なって現地生産が一時的に減少したこと、販売報奨金の増加などが理由となっている。
欧州市場では「C-HR」や各ハイブリッドカーの販売が好調に推移し、販売台数は前年比4万3000台増の96万8000台となり、営業利益は原価改善や諸経費低減の努力などで赤字だった前年から889億円増の771億円になっている。
アジア市場では前年比4万5000台減の154万3000台の販売となったが、中国市場での販売好調、原価改善の努力などで営業利益は4288億円(前年比43億円増)となった。その他地域では「ハイラックス」「エティオス」などが好調な中南米での販売増で前年比4万5000台増の139万2000台を販売し、営業利益も前年の634億円から倍増近い547億円増の1181億円となっている。
2019年3月期の見通しでは、連結販売台数ではタイを中心にアジア諸国での販売増を見込みつつ、新車効果が一巡する日本や中近東での販売減の見込みから、前期比1万4000台減の895万台を想定。連結決算では為替レートを米ドルで6円円高、ユーロは変動なしに設定し、売上高29兆円、営業利益2兆3000億円、当期純利益2兆1200億円を見込んでいる。
前提とする為替レートで米ドルが105円に6円円安になることで2300億円の減益要因になり、北米での金利上昇に伴って販売報奨金が増加する見込みで500億円の減益要因で、原価改善の努力、諸経費の減少などの増益要因を勘案しても998億円の減益見込みとなるという。
最後に白柳氏は、「今回の決算は、弊社製品をご愛顧いただいたお客さまをはじめ、販売店、仕入れ先、全てのステークスホルダーの皆さんのおかげと厚く御礼申し上げます。今後もいっそうの原価低減により『稼ぐ力』を磨き、将来技術に積極的な投資を行なってまいります。そして自動車会社からモビリティ・カンパニーへの変革を成し遂げたいと思っております」と締めくくった。
「“年輪経営”を続けつつ、伸びている市場に乗り遅れないようにしたい」と豊田社長
今回の決算説明会は2部構成で実施され、第1部で決算内容の解説が行なわれたあと、トヨタ自動車 代表取締役社長の豊田章男氏によるスピーチを中心とした第2部を実施。スピーチ内容については関連記事(豊田章男社長、「トヨタの真骨頂は『トヨタ生産方式、TPS』と『原価低減』」)で誌面掲載しているが、スピーチ後には豊田氏と白柳氏、トヨタ自動車の副社長である小林耕士氏、寺師茂樹氏の4人による質疑応答が行なわれた。
2018年3月期決算の受け止めと今後の中長期における台数成長のビジョンなどについて質問され、これに豊田氏は「今期の決算ですが、第3四半期の説明会の時に横におります小林副社長が『評価×』と言って、私はTVで見ていたのですが『×はないんじゃない!?』と。(それまで)デンソーにいて何が分かってるの、という感じでした。ですが、この4月から小林さんも含めた6人の副社長体制で、とにかく毎日いろいろとやりはじめてみました。そうするといろいろな課題が見えてきて、『やっぱり×だったのかなぁ』と思いました」。
「長い目で見ると、私は社長になって8年が経ちます。最初の4年は赤字の状態でたすきを渡され、その中で(米国の)公聴会に出席したり、品質問題があって、そこに自然災害の東日本大震災やタイの洪水などがあって、そんないろいろな試練が出てきたわけです。それはある面で、私自身の気持ちを振りかえると、それがあったおかげで私自身の求心力が上がりましたし、私が副社長から社長になるにあたっての脱皮ではないですけど、脱皮できるいい環境をいただいたと思っていますので、最初の4年間は今振りかえればこの会社にとっていい4年間だったと思います」。
「当時、私はグローバルビジョンとして(ドル円が)85円で、どんな経済環境の変化が起こり、750万台の生産でも決して赤字にならない体質を取り戻そうということをビジョンに掲げました。ところが、2012年にある面では達成したのですが、その後の4年間の『さぁこれからが勝負だ』という時に、当時『意思ある踊り場』といったことを申し上げたと思います。正直に申し上げて、私は体質改善が進んだと思っていましたが、最初の4年間の『ダイエット』については、単に体重が軽くなっただけで、筋肉になっていない脂肪が残っただけという4年間だったかと思っています」。
「これからの決算期は筋肉質に変えて、さらに新しい勝負ができる体質に変わっていく体制ができたのが、この2018年3月期の決算だったんじゃないかな、と。これからが『トヨタらしさ』を取り戻す本当の戦いになっていくんじゃないかと思っています。そこで『トヨタらしさ』と言ったときに、私の頭に思い浮かんできたのが『原価低減』と『TPS』だったということです」。
「今後5年から10年の台数成長のあり方についてですが、私は急激に台数が増えても、ドンと落ちたときの影響度が大きいので、社長になった最初のころにとんでもない経験をいたしましたので、やはり持続的に、年輪のように毎年しっかりと積み重ねていくことに社長に就任した当時からこだわってきました。ただし、中国をはじめとした急激に伸びている市場があることから、今はこだわりよりも重要視しております。年輪経営で毎年しっかりと年輪を重ねてきたこの8年間で、ある面でそうとうに体力も培ってきておりますので、ぜひとも今後、伸びていく市場には伸びるなりのタイミング、リソーセスを投入して市場に遅れないようシフトを変えていきたいなと思います」と回答した。
会社としての成功体験とそこからの変化についての質問には、取締役副社長の寺師氏が回答。寺師氏は「成功体験というのは、過去の10年、15年を見ていただくと分かるように、それまでの300万台、400万台といったところから、500万台、600万台から現在は1000万台まで来ました。社長と会話をしていて『600万台を超えたあたりからオペレーションが難しくなった』との話で、確かにそうだと感じました。ずっと右肩上がりで、従来のオペレーションでやってこれていた。これはある意味で、方程式で言うと変数が少ない間のビジネスと、その先で変数が増えて1000万台ぐらいになったのに従来の方程式の解き方でいけるのではないかと、みんなが『自分たちはまだやれる』と、世界は変わっているのに従来のやり方を続けられると思っている人と、違うやり方で解きにいこうよと反対する人で、どちらにも解がないのでどちらにも行けず、そこで従来のやり方が延々と続いてきてしまった」。
「そこで、多角形の絵に対角線を書いてみて、三角形には対角線がありません。これが四角形になると対角線は2本で済みます。これが1000万台の10角形になると36本の対角線があります。つまり、会社が大きくなることで対角線が増えると言うことで、調整が増え、コミュニケーションが増えて従来の効率では仕事ができなくなることを分かりやすく紹介してみました。自分たちの従来の延長線には答えがないと言うメッセージを技術の観点から内外に伝えています」と語り、規模の拡大した現在のトヨタに大きな変革が必要な理由を解説した。
自動車会社からモビリティ・カンパニーにフルモデルチェンジするにあたっての課題についての質問は、副社長の小林氏が回答。「まだ見えない課題がいっぱいあります。すでに答えが分かっていれば皆さんそちらに行きます。自動運転1つをとってもバラバラですよね。それからコネクティッドもそうです。他にも新しい概念が出てくる可能性がある。それで社長はいつも、競争相手もアライアンスで組む相手も、自動車以外の家電やいろいろな業界と手を携えて、人に対してサービスを供与していこうじゃないかというところです」と語り、想定しきれない課題に相手を限定しないアライアンスで対応していく姿勢を説明した。