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トヨタは電動化技術のシステムサプライヤーになる、「HVは賞味期限切れではない」
トヨタ自動車は2019年4月3日、車両の電動化技術について、トヨタ自動車が保有する特許実施権を無償で提供すると発表した。特許実施権の無償提供は2030年末まで。2020年末までとなっていた燃料電池車(FCV)の特許も無償公開を2030年末まで延長する※)。
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対象となるのは、駆動用モーターやパワーコントロールユニット、システム制御など同社がハイブリッド車(HV)の開発で培ってきた特許2万3740件だ。トヨタ自動車は、HVの基幹部品がさまざまな電動パワートレインに応用できるコア技術であると位置付ける。他の自動車メーカーがトヨタ自動車の電動システムを使って電動車を製品化する場合には、適合開発など技術サポートも提供する。なお、無償提供する特許実施権に駆動用バッテリーの特許は含まれていない。
今回の発表の背景には、今後厳しくなるCO2排出規制への対応がある。トヨタ自動車はこれまでにもFCVについて特許を無償公開してきたが、今回の特許開放の狙いについてトヨタ自動車 CTOで取締役副社長の寺師茂樹氏は「『じゃあどうぞ』と特許を開放されても、他社はなかなかその特許を使った開発や生産にリソースを割くことができない。トヨタはシステムサプライヤーとして、部品や技術をそのまま使ってもらう考えに変えた。特許を開放するだけでなく、部品や技術も提供する。その入り口を開けるのが特許の開放だ」と語った。
欧州のCO2排出規制は2020年から95g/kmに強化され、2025年と2030年にも段階的に厳しくなる。規制クリアへのハードルの高さについて、寺師氏は「2025年の規制はトヨタが販売する全てのクルマを現行モデルの『プリウス』に置き換えて乗り越えられるレベルだ。トヨタの他のモデルにHVを設定しても達成には届かない」と説明。
SUVなど重いクルマになるとHVでは2025年の基準達成は難しくなり、排出削減が足りない部分をプラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)、FCVでどう補うかという点で各社の戦略が出てくるという。欧州の規制動向はそのまま日本や中国、アジアなどにも広がるため、特定の市場だけでなくグローバルで同様の戦略が必要になるとしている。
規制クリアの基本的な考え方について、寺師氏は「いま販売しているクルマの半分はそのままで、もう半分を全てゼロエミッション車に置き換えるか。HVやPHVでCO2排出量を下げられれば、EVの導入比率は低くすることができる。また、(非電動車をなくして)全車ハイブリッド車にすれば、さらにEVの比率が下がるという考え方もある。トヨタの現実解は、HVでCO2排出量を極力下げるということだ。ルノー、ホンダ、日産なども直近でHVの戦略を発表している。ただ、どのパワートレインのクルマを買うかはユーザーが決める部分もある。比率は技術的な目標と市場の両面で決まる」と述べた。
システムサプライヤーのトヨタ
“システムサプライヤー”としてのトヨタの強みについて、寺師氏はこれまでの高効率HVの実績を挙げた。「電動車は少ないバッテリーでより多くの距離を走ることが重要になる。トヨタのHVはバッテリー容量と燃費を見た時に高い効率を達成できている。HVやPHVはどれだけモーターで走れるかがカギになるが、バッテリーの容量が大きければいいというわけではなく、エネルギー回生などバッテリーの使い方がポイントになる。これはHVだけではない電動車共通の技術だ。少ないバッテリーでたくさん走ることはEVの価格低減にも効いてくる。単体でトヨタの部品を使ったり、他社の部品を買い集めたりするよりも、システムとして適合開発を進める部分で貢献できる」と寺師氏は自信を見せる。
駆動用バッテリーについては特許実施権の無償提供の対象としていないが、「電池も一緒に使ってもらえるのであれば、個別にお話ししていく」(寺師氏)という方針だ。トヨタ自動車はパナソニックと駆動用バッテリーに関する共同出資会社を設立しており、これを通して共同開発したバッテリーを自動車メーカーに広く提供する姿勢をとっている。
また、今回の発表で対象となったパワーコントロールユニットは、生産や量産開発がデンソーに移管される部品だ。トヨタ自動車から他社への提供が進めば、デンソーが手掛けるパワーコントロールユニットの台数は「桁が1つ以上大きくなる。デンソーに集約してグローバルで戦えるパワーコントロールユニットを開発し、広く使っていきたい」(寺師氏)としている。