ITmediaビジネスONLINE
【一問一答】トヨタ社長「過去の成功に頼っていては未来がない」
トヨタ自動車の豊田章男社長は、5月8日に開催した2019年3月期決算説明会で、成長分野として注目される「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」への対応を加速させる考えを示した。
CASEの技術革新によって、トヨタが長年構築してきたビジネスモデルが崩壊していく可能性に言及。「FCV(燃料電池車)でも、EV(電気自動車)でも、完成車として販売店に卸してお客さまに届けることにとらわれていた。確かに、HV(ハイブリッドカー)まではこのビジネスモデルが有効だったが、新たなインフラを必要とするFCVやEVでは通用しないかもしれない」と認めた。
そして、FCVやEVの「普及」を進めるため、「乗用車や個人向けにこだわらず、商用車や官公庁、法人から広げていく」「単独開発にこだわらず、仲間と共同で開発する」「特許を囲い込むのではなく、開放して仲間を増やす」「クルマだけではなく、使い方とセットでシステムを売る」という、企業や業種を超えた“仲間づくり”に注力していくと語った。
「成功体験を持った大企業をフルモデルチェンジすることは時間がかかるが、過去の成功モデルに頼っていては未来はない」と断言した豊田社長はスピーチ終了後、報道関係者などの質問に答えた。主な発言は以下の通り。
――今回の決算の評価は。
豊田氏 売上高が初めて30兆円を超えた。仕入先や販売店など、多くの皆さまと一緒にコツコツと積み上げてきた結果だ。感謝したい。この1年を一言で表すと、「未来に向けて、トヨタのフルモデルチェンジに取り組んだ1年」。積極的な投資はできたが、原価をつくり込む活動、トヨタらしさを取り戻す風土改革は道半ばだ。
――2009年6月の社長就任から10年。最も感情を揺さぶられた出来事は。
豊田氏 毎日揺さぶられている。10年を目的にしてきたわけではない。就任してすぐに米国の(大規模リコール問題で)公聴会に行ったので、「社長は1年もたなかったな」と思ったスタートだった。そして最初は赤字で、すぐにでも責任を取ってやめるような立場だった。長くやるなんて気持ちはなく、毎日必死に生き抜いた結果。いまも毎日のように「今日も生きてた。明日も経営に携われる」と思っている。毎日ハラハラドキドキしている。
トヨタは「選ばれる立場」
――「仲間づくり」について。どのように進めていくか。
豊田氏 キーワードは「オープン」と「スピード」。まずは、自分自身に競争力がないと誰からも相手にされない。そして、1社だけでは何もできないことを認識して、自社の強みと弱みを把握しながら他の業種の企業とも協力していく。
大事なのは、トヨタが(パートナーを)選ぶわけでなく、選ばれる立場だということ。一緒に仕事をする意義を感じてもらい、一緒に未来をつくりたい、トヨタが好きだと言っていただく機会を増やしたい。
――各国政府のインフラ面でのサポートについて。どういったものが必要か。
豊田氏 FCVとEVの普及には、インフラ整備が必要。補助金も必要。そのためにも、各地域で「トヨタの意見を聞いてみたい」「(プロジェクトの)メンバーに入ってほしい」と選ばれるようになれれば。
これまでも各地域で「この町一番の会社」を目指してきた。政府からは「投資を決めてくれてありがとう」と言ってもらい、こちらからは「支えてくれてありがとう」と言える。双方が「ありがとう」と言い合えるような関係を目指していきたい。
――株主還元の方向性について。
豊田氏 トヨタ株の魅力を考えると、安定が求められる銘柄と考える方が多いと思う。その期待に応えるための成長戦略を考える上で重要な2つのキーワードは「持続的成長」と「競争力強化」。トヨタ株を中長期にわたって持ってよかったと思う人が増えるといい。設備投資1兆円、研究開発費1兆円、株主還元1兆円を続けていくことが大きな課題。
――次の時代に、“移動の幸せ”をどのように世界の人たちにもたらしてくれるのか。
豊田氏 “移動の幸せ”の陰には不幸せもある。交通事故や大気汚染だ。この不幸せをできる限り最小化するため、地道にやっていくしかない。昨今、交通事故が大きく報道されている。非常に心が痛く、悲しい思いだ。重大事故をゼロにしていくのは長い道のりだが、変わらぬ軸として進めたい。
「トヨタは大丈夫」が最も怖い
――ビジネスモデルを変革しなければならないという話だが、成功体験があると、変化に対する摩擦や反発がある。どう変えていくのか。
豊田氏 それが分かれば苦労しない。何が正解か分からないが、まずはやってみないと反応も分からない。諦めずにコツコツと続けるしかない。とにかく良いと思ったことはやってみる。間違っていると分かれば引き返して、別の道を探す。「やってみながら考える」ことが重要だ。
――自動車も所有から共有にシフトしている。「クルマは“愛”がつく工業製品」という「愛車」の考え方は維持できるか。
豊田氏 所有も共有も両方必要な考え方。社内では、よく歯ブラシとタオルの話をしている。ホテルで歯ブラシは共有されないが、タオルは共有される。その違いは何か。タオルは清潔で安心安全であれば共有されるが、歯ブラシは共有されない。そういったところにも答えが隠されているのでは。社内でエンジニアや営業マンなどと議論して、これといった答えは出ていないが、両方に乗っていく考えだ。
――最も恐れているトヨタの課題とは。
豊田氏 「トヨタは大丈夫だ」と思うこと。社内でも「何でこんなに危機感をあおるのか」と言われるが、あおっているわけではない。「大丈夫」「何を心配しているのか」というのが一番危険。日々いろんな変化が起こっている中で、その変化に神経を研ぎ澄ましていく。大きな会社でそれをやっていくために、「大丈夫」という言葉は怖い。