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まもなく就任10年の豊田章男社長が挨拶「トヨタのフルモデルチェンジ」とは?
トヨタ自動車は5月8日、2019年3月期の決算説明会を開催した。その中でまもなく社長就任から10年を迎える豊田章男社長より挨拶が行なわれた。
なお、会見の模様の動画はトヨタの公式YouTubeチャンネルで公開されている。
社長としての10年を振り返り、最初の3年はリーマンショック、大規模リコール、東日本大震災、タイの洪水など多くの危機に直面し、どんなに経営環境が悪化しても、年輪を刻むように着実に「成長し続ける会社」にならなければならない。「持続的成長」と「競争力強化」が不可欠だと心に誓ったのが、この時期だという。
次の3年間については足踏みをした時期として「意志ある踊り場」と表現した。トヨタがもともと持っていた「トヨタらしさ」に磨きをかける期間にしたかったというが、自己評価では充分にはできなかったと感じているとし、「平時における改革」の難しさを痛感したという。
直近の4年間については、「トヨタらしさ」を取り戻すことと未来に向けてトヨタをモデルチェンジすることの両方に同時に取り組んだ期間だとした。
ここでいうモデルチェンジとは、「100年に一度」と言われる大変革の時代において、トヨタを「モビリティカンパニー」にフルモデルチェンジするということ。この10年でそれこそが私の使命であるという想いにいたったと言う。
これまでの自動車産業について非常によくできたビジネスモデルだとしながらも、これからの時代は「CASE」(Connected、Autonomous、Shared、Electric)と呼ばれる技術革新によって、クルマの概念そのものが変わっていき、これまでのビジネスモデルそのものが壊れる可能性があると述べた。
そうした時代にトヨタが生き残るために磨き続けるべきこととして豊田社長は、トヨタがこれまで作ってきたものは1台のコンセプトカーではなく、100万台規模で量産し、10年後も、20年後も、安全で、安心して使い続けられる「リアルの世界」を作ってきた。そこにあるのは「モノづくりの力」「ネットワークの力」「保有の力」という「リアルの力」であり、そこを磨き続けることがトヨタの競争力につながるとした。
さらに、「CASE」の時代にあわせて変えていくべきものについては、CASEの中のE(電動化)を例に、トヨタがやらなければならないことを「普及」と表現した。これは、燃料電池自動車(FCV)でも、電気自動車(EV)を販売していくにあたって、これまでのようにクルマを売って終わりではなく、使い方とセットでシステムを売る必要がある。そのためには個人ユーザーだけでなく商用車や官公庁、法人から広げる。単独開発にこだわらず、仲間と共同で開発する。特許を囲い込むのではなく、開放して仲間を増やす。そういった発想が必要になるとした。
そのためには「仲間づくり」がキーワードになるといい、従来のような資本の論理で傘下におさめるという考え方ではなく、「どんな未来を創りたいのか」という目的を共有し、お互いの強みを認め合い、お互いの競争力を高め合いながら、協調していくことが求められると述べた。
「私たちが求める未来は、トヨタだけでは創ることができない。だからこそ、志を同じくする仲間を広く求めていく。グループ会社はもちろん、他の自動車メーカー、[コネクティッド・シティ]を支えるあらゆるモノ・サービスを提供する仲間との連携を強化していく。そうした取り組みを進める中で、私たちが目指す[モビリティカンパニー]としてのビジネスモデル[モビリティサービス・プラットフォーマー]への道が拓けてくる」と考えを述べた。
最後に、この大変革の時代は、何が正解か分からない時代だとし、とにかく良いと思ったことはやってみる。間違っているとわかれば、引き返して、別の道をさがす。成功体験をもった大企業をフルモデルチェンジすることは、本当に時間のかかることだが、過去の成功モデルに頼っていては未来はない。中長期的な視野で、ブレない軸をもって、変革への取り組みを進めていくと締めくくった。
質疑応答。豊田社長の「仲間」選びの基準は?
挨拶後に質疑応答の時間が設けられた。
──社長としての10年で感情を揺さぶられたような「これは」という事がらはなにか?
豊田社長:「毎日揺さぶられている。もう10年ですねとよく言われるが、10年やることを目的にしてきたわけではない。最初にすぐ米国公聴会に行ったので“社長は1年持たなかったな”と思った。最初は赤字でしたから今すぐにでも責任とってやめるという状況からスタートしたので、毎日毎日必死に生き抜いていった結果がこの10年」
──「仲間づくり」の「仲間」を選ぶ基準は?
豊田社長:「1つは自分自身に競争力と信頼度がなければ相手にされない。自分たちの強み、弱みを理解したうえで、他の会社とともにさらに未来を作るために自分たちも参画したいという意思を社員全員がもっている。そうした意思が相手からも認められるために競争力と信頼度を身につけることが大切。そしてもう1つ、トヨタが選ぶわけではなくトヨタが選ばれる立場だということが大事。企業の規模で言えばトヨタが選んでいると言われがちだが、われわれが選ばれてる。それは好き嫌いも含めて。だからトヨタを好きだと言ってもらえる人を増やすことが必要だと思う」
──豊田社長の考える「移動の幸せ」とは?
豊田社長:「移動の幸せの影には移動の不幸せもある。交通事故、大気汚染など。こういう問題はモビリティ会社に関わる上で非常に解決すべきネガな話。こういう話をミニマイズしていきたい。それにより相対的にクルマに愛をとか、そういったことが結果的にマキシマイズしていくことを地道にやっていくことしかない。交通事故ゼロを目指す道のりをこれからも変わらない軸として持って行きたい」
──トヨタのフルモデルチェンジについて、成功体験のある会社、人を変えて行くには摩擦が生じると思うが、それに対して強行で行くのか待つのか?
豊田社長:「それが分かっていたら苦労しない。答えがない。どれが正解か分からない。だけどやらなければ反応も分からない。行って間違いだと思ったらやめる。コツコツ続けるしかない」
──豊田社長が常々口にしている「クルマは愛のつく工業製品」について、CASE、とりわけシェアリングは所有から共有になると思うが、愛のつく製品は維持できるのか?
豊田社長:「所有と共有はどちらも自動車メーカーには必要。私がよく言う例は歯ブラシとタオル。歯ブラシは共有されないがタオルは共有される、その違いにつきる。タオルは清潔である、安心・安全であるということがなければ共有されない。歯ブラシは清潔で安心・安全でも自分の所有でいく。自動車の所有と共有でもその辺に答えが隠されているんじゃないかと思う。社内でもエンジニアや営業マン、管理職と議論し始めているがこれといった答えは出ていないが、今はトヨタは両方に乗っていくという答えを選んでいる」
──社長は常々生きるか死ぬかの戦いだと言われるが、トヨタ社長が最も恐れているもの。どういった状況になったらトヨタは死んでしまうのか?
豊田社長:「トヨタは大丈夫だと思うってこと。なぜそんなに危機感をあおるのかと言われるが、危機感をあおっているのではなく、価値観を向上したいと思っている。これだけ日々いろんな変化が起こっているなか、すべての変化に神経を研ぎ澄まし、それに追随していく企業体質を、これだけ大きな会社でやっていくなかで、トヨタは大丈夫と思ってしまう気持ちが一番危険だと思う」