日経ビジネス
ダイハツ「タント」、狙うのは「健常」と「要介護」の間
ダイハツ工業は9日、新型軽自動車「タント」を発売した。全高が175センチメートルと背の高い「スーパーハイト系」と呼ばれる主力車種だ。6年ぶりのフルモデルチェンジで、新たな開発手法「DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を取り入れた初めての車となる。DNGAではプラットフォームなどを刷新しており、今後は親会社であるトヨタ自動車へ供給する計画だ。
9日、都内で開いた記者会見でダイハツの奥平総一郎社長は「新型タントは操縦の安定性や使い勝手が格段に上がった」と話した。衝突回避を支援するブレーキ機能などに加え、進入禁止の標識をカメラが検知する警告表示や、車線内に車をもどすようにステアリングの操作を助ける機能も追加した。
「先進技術を全員に届ける」と奥平社長が話すように、タントは子育て世帯やシニアなど幅広い顧客層をターゲットにしている。中でもダイハツが目を向けるのが、健常な状態と要介護状態の間にいるシニア層だ。
従来モデルでは、健常者向けには標準車、要介護のシニアには昇降シートなどを備えた福祉車両を販売していた。ただ「足腰が動かしづらいといった、体にちょっとした不安を覚えるシニアにとって福祉車両は機能がオーバーで敬遠しがちであることがわかった」(ダイハツ)という。
こうした健常と要介護の隙間にいるユーザーに向け、タントでは新たなオプションを加えた。例えば、助手席のシートがドアのほうへ30度回転するようにし、助手席の前側に小さな手すりを取り付け、乗降しやすくした。販売店での聞き込みのほか、鈴鹿医療科学大学や日本理学療法士協会と研究データをやりとりするなかで生まれたものだ。「DNGAの第1弾ということも重なり、(オプションについても)開発の初期段階から話し合いを重ね、やりたいことが実現できた」とチーフエンジニアの田代正俊氏は話す。
高齢者による事故が相次ぐ中、運転支援にも力を入れた。「操作ミスがないよう、直感的に使えるようにスイッチやメーターなどを工夫した。今後も様々な機能の搭載を考えていきたい」(田代氏)としている。
国内の新車市場では軽自動車の比率が4割近くまで増えており、競争が激しくなっている。燃費や安全性能だけでは差が付きにくくなっているだけに、高齢者を意識した乗りやすさや使いやすさが新たな付加価値となりそうだ。