MONOist
ダイハツ新型「タント」は価格ほぼ据え置きで装備充実、高齢化に向けた開発も
ダイハツ工業は2019年7月9日、東京都内で会見を開き、軽自動車「タント」を全面改良して発売したと発表した。
新型タントは、車台やパワートレイン、電子プラットフォームなどを全面刷新する取り組み「DNGA(Daihatsu New Grobal Architecture)」の第1弾のモデルとなる。先進運転支援システム(ADAS)や快適装備を充実させながら、車両価格は先代モデルと同等を維持した。DNGAは当面、利益率の向上よりも「車両価格の上昇を抑えながら、新しい装備を増やす余裕を生み出す役割になる」(ダイハツ工業 取締役 DNGAユニット担当の松林淳氏)。
ユーザーが多様化し、子どもだけでなく高齢者を乗せる場面が増えていることから、福祉車両と標準モデルの間を埋める装備を充実させた。
新型タントのメーカー希望小売価格は、消費税8%で122万400~187万3800円となる。先代モデルと比較するとADAS非装着のベースグレードは価格が据え置きで、ADAS装着の最廉価グレードでは2万1600円増となる。
ADASや快適装備の強化で電子プラットフォームを大幅刷新
DNGAでは車両の電子プラットフォームも刷新し、新型タントから採用されている。新しい電子プラットフォームでは、今後ニーズが高まる機能の実現に向けて、各種ECU(電子制御ユニット)の配置、ECU同士の連携や通信方式、ワイヤハーネスの使い方を規定した。刷新した電子プラットフォームは、軽自動車だけでなく、A~Bセグメントの小型乗用車にも展開する。
新型タントの開発は、「車両価格を維持することをまず考えた上で、性能向上に取り入れられる最善の技術を取り入れた」(ダイハツ工業 取締役社長の奥平総一郎氏)。そのため、電子制御機能の拡充に直結する新しい電子プラットフォームも、「いかにECUを増やさずに機能を充実させるかを考えた。ECUは従来の電子プラットフォームと比較してもさほど増えていない。ワイヤハーネスも、例えば5本必要なところを2本で実現できないかなど頭を悩ませた」(電子プラットフォームの担当者)。
新型タントでは、標準装備の予防安全パッケージ「スマートアシスト」を進化させながら、より先進的な運転支援機能を「スマートアシストプラス」としてメーカーオプションで設定した。電子プラットフォームの刷新によって機能が強化されている。
スマートアシストに新たに加わった機能としては、ステアリングのアシスト制御が介入する車線逸脱抑制、対向車の部分のみ自動で遮光するアダプティブハイビーム、進入禁止に対応した標識認識機能、ブレーキ制御付き誤発進抑制がある。誤発進抑制は、これまでエンジンの出力を絞ることで前後方向の急発進を防いでいたが、ブレーキ制御も加えた。
スマートアシストプラスに含まれるのは、先行車に合わせて車速や車間距離を維持するアダプティブクルーズコントロール、車線の中央を走行するようステアリング操作を支援するレーンキープコントロール、駐車時のステアリング操作をアシストする「スマートパノラマパーキングアシスト」、夜間の右左折時にステアリングを切った方向に補助灯を追加点灯させる「サイドビューランプ」といった機能だ。スマートパノラマパーキングアシストは、ドライバーがシフトレバー、アクセル、ブレーキを操作する必要があるが、並列駐車と縦列駐車の両方に対応する。
前方監視用のセンサーは従来と同じステレオカメラを引き続き採用しており、スマートパノラマパーキングアシスト用のカメラも従来のサラウンドビューのカメラを使用している。どちらもソフトウェアのみを変更することで、コスト上昇を抑えながら機能を強化した。
電子プラットフォームの切り替えに合わせて、ボディー制御関連の機能も充実させた。助手席側のドアが半ドアの場合に自動で全閉する「イージークローザー」、パワースライドドアが閉まり切る前にドアハンドルのスイッチに触れるとドアロックを予約できる「タッチ&ゴーロック機能」、インストゥルメントパネルのスイッチを押して降車すると、キーを身に着けた人が戻ってきたときにスライドドアを自動で開ける「ウエルカムオープン機能」を採用した。いずれも「軽自動車では初採用」(ダイハツ工業)だとしている。また、子どもや高齢者が乗り降りしやすくするために、助手席側のドア開閉に連動して自動で展開、格納するオートステップもディーラーオプションで設定した。
DNGAの電子プラットフォームはコネクテッド化も前提としている。新型タントには搭載されていないが、将来のデータ通信ユニットの搭載も織り込んでいる。無線ネットワークによるアップデート(OTA:Over-The-Air)などを見据えてセキュリティ対応も進めたが、「セキュリティ技術は進化が早い。DNGA自体は2世代先までカバーすることを考えた取り組みだが、現時点でDNGAの電子プラットフォームのセキュリティで対応できるのは今後2~3年までだろう。その先、ハードウェアの更新が必要か、ソフトウェアの変更で対応できるか、今は何とも言えないところだ」(電子プラットフォームの担当者)という。
高齢者の声を開発初期から取り入れる
タントの初代モデルは子育て層をターゲットとしており、子育て層が実際のユーザーの大半を占めていた。しかし、過去2回の全面改良のたびに、シニア層のユーザーも増えてきた。助手席や後部座席に高齢の家族を乗せるユーザーも増えているという。
日本の人口に占める65歳以上の比率は、2025年に30%に達する見通しだ。要介護者数は2015年に600万人を超えており、今後は要支援やその前段階、軽度の要介護者の増加率が高くなると予測されている。ダイハツ工業では福祉車両として、助手席が回転、スライド、リフトする車両や、車いすのまま乗り込める車両を展開してきたが、要支援や軽度の要介護者に向けた車両がラインアップになかった。こうしたユーザーからは「福祉車両はまだ自分たちが使うクルマではないと思う」と抵抗感を示す声が上がっており、販売店からも福祉車両の提案には気を遣うという意見があった。
こうしたニーズを取り込むべく、ダイハツ工業は産学共同で標準車両と福祉車両の間を埋める装備を開発した。新型タントの開発初期段階から、運動学を研究する鈴鹿医療科学大学や、三重県四日市市の主体会病院の理学療法士が協力し、地元に住む高齢者も参加して乗り降りしやすい手すりやステップを検討した。
開発の成果は新型タントのオプション用品として設定されている。ステップや手すりの装着により、上下方向の重心移動が少なくなり、身体の負担を軽減できることを確かめた。また、人の手を借りなければ乗り降りできなかった高齢者が、自力で乗降できることも確認された。日常のささいな動作で人の手を借りると、高齢者は「迷惑を掛けているのではないか」と不安や負い目を感じやすくなる。クルマの乗り降りという点で移動に対するハードルを下げ、高齢者の社会参画をサポートする。
新型タントの開発初期からこうした取り組みを進めた結果、車体骨格の設計段階から高齢者向けの装備や福祉車両に必要な仕様を前提とした強度、構造にすることができたという。従来は、標準仕様の車体が開発されてから福祉仕様を追加していたため、装備の取り付けに制限があった。
例えば従来は、ピラーに取り付ける手すりなどは車体への加工、補強が必要となるためコストが高かった他、畳んだ車いすを持ちあげるリフトは床下にしか搭載できないため、荷室空間が制限されるといった課題があった。新型タントの車体骨格は、全車種共通で手すりの取り付けを前提とした。また、一部グレード向けには畳んだ車いすを持ち上げるリフトを天井に装着することを前提とした強度の骨格とした。
高齢化が日本だけでなく各国で進むことを考えると、運転支援システムだけでなく、乗り降りのしやすさなども含めて高齢者に優しいクルマづくりの重要性が高まりそうだ。