日本経済新聞
スズキ、カーシェアに新たな一手 変幻自在のPHV
ボタン1つでコンパクト車からスポーツ車に――。スズキはカーシェアリングの新たな手法を提案した。23日、東京モーターショーでスイッチを押すと車体が変形するプラグインハイブリッド車(PHV)を初公開した。家族で1台の車を共有する場合を想定するが、将来的にカーシェアは個人の好みに対応した車が求められるとされ、一つの解になり得そうだ。
「いつでも、誰でも、どこへでも楽しさやワクワクをシェアリングできるパーソナルでコンパクトなPHVだ」
23日午前、東京ビッグサイト(東京・江東)で開かれた東京モーターショーの報道公開日で、この日最初にステージに立ったスズキの鈴木俊宏社長はこう強調した。
まず車内の「ワクワクスイッチ」と名付けられたボタンを押す。もともとワゴン型のコンパクト車だったが、後方の天井が下がり、フロント部分の液晶に映し出される画像も角張った模様に変わり、4人乗りのスポーツ車に変貌した。シート位置も前方にずれるなど車内装備も外観に合わせてアレンジされた。映画「トランスフォーマー」のような動きだ。
出展したのは「WAKUスポ」と呼ぶコンセプト車で、世界初公開だ。全長3.7メートル、幅1.6メートル、高さ1.4メートルのコンパクト車。PHVの四輪駆動車(4WD)だ。
例えば、両親はコンパクト車として普段使いし、子供はスポーツ車として乗るなどドライバーの好みや利用シーンによって変える。
自動車は「所有」からカーシェアリングサービスやレンタカーなど「利用」に移る傾向が強まっている。富士経済(東京・中央)によると、カーシェアの市場規模は2030年には260億円となり、17年の9倍に膨らむと予測する。
02年にオリックス自動車(東京・港)が日本で初めて事業化して以降、タイムズ24(東京・千代田)の「タイムズカーシェア」や三井不動産リアルティ(同)の「カレコ・カーシェアリングクラブ」などが参入して市場拡大が続く。
スズキも、丸紅とIT(情報技術)企業のスマートバリューと組み、大阪府豊中市でカーシェアの実証実験を進めている。一方で、トヨタ自動車や日産自動車、ホンダなど完成車メーカーもサービスに乗り出し、競争環境は厳しい。
カーシェアには課題もある。車を所有すれば個人の趣味に合わせてボディーカラーを選べたり内装を装飾したりできる。カーシェアでは好きなボディーカラーを選びにくく、内外装を装飾することはできない。
スズキのコンセプト車について鈴木社長は「みんなでワクワクをシェアリングできる未来の小さな車だ」とする。個人の趣向などに合わせて車自体を変形させるという考え方は、カーシェアがさらに普及してコモディティ化(同質化)が進む車のあり方に対する一つの解となりそうだ。