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アウディデザインのキーマンに聞いた! “温故知新”のこだわり4つのポイント
・「シングルフレームグリル」の起源は日本人デザイナー
アウディ ジャパンは2019年7月3日、東京都現代美術館でSUV「Q」シリーズのフラッグシップモデルとなる「Q8」を発表した。アウディにとって「8」は、重要な意味をもつ数字だ。セダンの「A8」にスポーツカーの「R8」、そしてQ8と、トップエンドモデルであることを意味している。そして、昨年発表された新型A8がセダンの、Q8がSUVの、今後のアウディデザインの礎となるものだ。ここで少しアウディデザインの歴史について振り返ってみる。近年で最もエポックな出来事は2005年に登場した3代目「A6」で初めて採用された「シングルフレームグリル」の誕生だ。ちなみにこのA6のエクステリアデザインを担当したのは、当時独アウディに在籍していた日本人デザイナーの和田 智氏だった。このシングルフレームグリルは、アウディのキーデザインのひとつとして四角い台形から六角形や八角形へと変化しながら現代に受け継がれている。社長が替われば会社が変わるように、編集長が替われば誌面が変わるように、自動車のデザインが変化するきっかけは、デザイン部門のトップの交代とリンクしている。このシングルフレームグリルが誕生した当時、アウディのデザイン部門のトップを務めていたのが、自動車デザイン界ではつとに有名なワルター・デ・シルヴァ氏だった。氏はアウディをはじめ、ランボルギーニやセアトのデザインも統括。のちにフォルクスワーゲン(VW)グループ全体のデザイン責任者となった。そののち、2007年にアウディのデザイン部門のトップを引き継いだのが、ヴォルフガング・エッガー氏だ。アルファ・ロメオのチーフデザイナーとして「156」「166」「147」「8Cコンペティツィオーネ」などを手がけたことで知られており、現在は中国BYDのデザインヘッドを務めている。そして、2014年から現在までアウディのデザインヘッドを務めているのがマーク・リヒテ氏だ。VWでキャリアをスタートし、「ゴルフ」(5、6、7世代)や「パサート」「トゥアレグ」「アルテオン」などのプロダクションモデルを手がけてきた。これらのモデルの姿かたちに鑑みれば現在のアウディにつながるクリーンで先進的なデザインを得意とする人物であることは容易に想像がつくだろう。2014年11月にリヒテ氏は、アウディのこれからの方向性を示す「アウディ・プロローグ」というコンセプトカーを発表。いまあらためて見てみると、このコンセプトには、新型A8をはじめ「A7」やA6などに用いられたデザインエッセンスが込められていることがわかる。
・単なる「Q7」のクーペ版ではない
新型Q8の国内発表に際し、エクステリアデザインのプロジェクトリーダーを務めたフランク・ランバーティ氏が来日した。氏は初代R8(ロードカー)や、ルマンのLMP1マシン(R8や「R10」「R15」)、さらに現行の「A4」や「A5」、そして「アイコン コンセプト」などにいたるまで幅広く手がけるアウディを代表するデザイナーの1人であり、デザインヘッドの交代による変化を最も身近に感じてきた人物だ。リヒテ氏がデザイン部門のトップになって以降の、新世代デザインについて尋ねてみた。「マーク・リヒテの本来的な意味での最初の作となるのが、新しいA8です。その流れがA6やA7へとつながっており、次の新しい『A1』へと受け継がれていきます。そしてSUVとしての新しいデザイン言語をもつのが、このQ8、そして『e-tron』、さらに今後日本にも導入されるであろう新型『Q3』です」アウディでは「PI(Product Improvement)」と呼ぶが、いわゆるマイナーチェンジのタイミングでも、新しいデザインエッセンスを盛り込むのが常だ。しかし、もちろんそこにはさまざまな制約があり、リヒテ氏が率いるデザインチームが一から手がけたという意味では、セダンとしてはA8が、SUVとしてはQ8が初のモデルになるというわけだ。新世代のシングルフレームグリルのデザインは、Aモデル(セダン系)では水平基調なのに対し、Q8にはQモデル(SUV)のアイコンである八角形のシングルフレームグリルを採用しており、力強さとアグレッシブさを強調し、差別化を図っている。ランバーティ氏は続ける。「リヒテが常に言っているのが、アウディの特徴であるクワトロ、パワートレインをきちんと表すこと。それは単にブリスター形状にするということではなく、4つのホイールの表現という意味です。エレガントだったり、スポーティーだったり、力強さだったり、洗練されていたり、モデルによってその表現手法は異なりますし、いろんなバリエーションが考えられます。それがデザイナーとしての腕の見せどころでもあるのです」Q8は「BMW X6」をはじめ、メルセデスの「GLEクーペ」や「ポルシェ・カイエン クーペ」「レンジローバー ヴェラール」など、強豪がひしめくカテゴリーへのアウディの新たな挑戦となるモデルだ。Q7をベースにクーペライクなデザインをというのが、そもそもQ8のプロジェクトのスタートだった。「競合がすでにある中で、Q7のルーフを変えるだけのようなやり方ではクローンになってしまう。そこでアウディのDNAを注ぎ込むべく、やっぱりまったく新しいクルマをつくろうということになり、パッケージを変えました。ここがすごく重要でした。ホイールアーチを変え、ルーフを30mm下げ、リアエンドを短く……。こうしてよりよいプロポーションのSUVクーペに仕上がったのです」
・「スポーツクワトロ」から受け継いだ4つのポイント
「スポーツクワトロ」から受け継いだ4つのポイントシングルフレームグリルの太い枠は、ベースモデルではボディーと同色に、「Sラインパッケージ」ではプラチナムグレーに、欧州ではすでに発表されている高性能版の「SQ8」ではアルミになっている。これは自らが手がけた初代R8で、サイドブレードの色を変更できるようにしたことに着想を得たものだ。そして、アウディではまったく新しいクルマをデザインするときに必ずアウディの歴史上のクルマを振り返るという。新型Q8に用いられたデザインテーマは「スポーツクワトロ」と話す。「スポーツクワトロはアウディの歴史上で最もカッコいいというわけではありませんが(笑)、最もエキサイティングなクルマではあります。ドライブするとワクワクする。また、先ほども述べたように、マーク・リヒテのルールとして、アウディは必ずクワトロをデザインで示さなければならない。ですからクワトロブリスターがあります。さらに、スポーツクワトロには力強いブラックのフロントマスクとのびやかなルーフライン、極太のCピラー、そしてリアのブラックパネルといった特徴がありました。この4つのポイントをQ8に取り込んでいるのです」BMWのキドニーグリルに関する記事でも述べたが、ヘリテージを受け継ぐこと、つまり“温故知新”がこれからの自動車デザインにおいて重要なキーワードになることは間違いない。最後にランバーティ氏はこんなふうに笑顔で話してくれた。「われわれはメルセデスみたいとか、BMWみたいとか言われるようではもちろんダメで、Q8はアウディらしくシンプルでクリアでありながら個性が表現できている……おそらく(方向性は)間違っていないと自負しています(笑)。“他にはないね”と言っていただければ、デザイナーとしては最高のほめ言葉だと思いますね」