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【アウディ e-tronスポーツバック】EV販売戦略の要はとにかく試乗してもらうこと…日本法人社長
アウディは17日、『e-tronスポーツバック』(Audi e-tron Sportback)の日本市場での販売を開始した。プレスイベントでアウディジャパン代表取締役社長のフィリップ・ノアック氏に話をきくことができた。なぜこのタイミングになったのか? 日本での販売戦略は?
e-tronスポーツバックは、アウディとしては「クワトロシステム」の初のピュアEVでもある。1980年に鮮烈なデビューを飾ったアウディ『クワトロ』は、乗用車としては画期的な4輪駆動システムを搭載し、WRCデビュー戦で圧倒的な速さをみせ、2戦目ですぐに優勝を飾り、その後の乗用車4WDの方向性を決定づけたといってもいいエポックメイキングな車両だ。
その後クワトロシステムは洗練され、現在4つの内燃機関エンジンのモデルが存在し、アウディの魂ともいえるクワトロをEVに対応させたことは同社の本気度を窺わせる。ノアック社長は、同日行われたオンラインのプレゼンテーションでも、e-tronスポーツバックのEVとしての環境性能のほか、内外装の細部の作り込み、クワトロシステム(eクワトロ)の完成度の高さを強調していた。
クワトロの制御は、センサー情報に予測制御を加えたフィードフォワードに特徴がある。過去40年の蓄積を生かしつつ、e-tronではフル電子制御(サーボやアクチュエーターによるメカニカルな制御がない)の特徴を生かし、30ミリ秒単位の制御を行っている。
そのeクワトロをスポーツバックに最初に搭載した理由についてもノアック社長は、「クーペボディというエモーショナルなモデルで、とにかく市場にインパクトを与えたかった」と説明する。
日本の電動化の動きについては、「水の流れと同じで誰にも止められない。日本市場は若干動きは遅いものの、ディーゼルが日本に普及したときと同様に切替が起きれば速い」と分析している。同時に内燃機関への投資も続けるが、これは顧客のニーズに対応するためと、年々変わっていく各国の排ガス規制に対応するためだとする。
とはいえ、e-tronスポーツバックの車両価格は1300万円を超える。プレミアムクラスの車両となるため、2020年(あと3か月)の販売目標は200台、21年の販売目標も500~600台と台数としては控えめだ。しかし、だからといって「売れなくてもいいEV」とは異なるようだ。
販売戦略は、顧客中心(カスタマーセントリック)をキーとして、試乗(テストドライブ)、3年間の残価保証、自宅用充電ポートの設置補助を掲げる。発売当初は全国の52のディーラーを拠点とする。ここには50kWと90kWの直流急速充電器と、8kWの交流普通充電器を用意する。52のディーラーは全国をバランスよくカバーする充電ポイントになるように厳選したという。
急速充電は、チャデモ対応しているのでディーラー網以外の充電器の利用も可能だ。50kW出力の充電器で1回30分の充電で、およそ100km分の充電は可能だという。
とくにこだわるのは試乗だ。e-tronスポーツバックは、アウディのEVを市場に強く印象付ける狙いがある。その印象を強化するには、専門家よりもまず「ユーザーにEVとはどんなものか、充電とはどういうものか、乗り心地や加速はどうか、といったことを体験してもらうことが重要」(フィリップ・ノアック社長)ということだ。
そのため、ディーラー体勢の準備のほか、アウディジャパンの全従業員には必ずe-tronを乗ってもらうようにしているそうだ。たとえば、17日の国内販売開始の翌日、18日と19日には一般ユーザーを招いたe-tronスポーツバックの試乗会が開催される。招待客は2日間で200人ほどに達するという。同様なユーザー向けの試乗イベントは、国内40か所で適宜開催される予定もある。
2020年から21年にかけては、国内外メーカーによるEVモデルの発表が予定されているが、発表が先行しているきらいがあり、現時点でユーザーが試乗できる車両はまだ限られている。アウディの「とにかく乗ってもらう」という戦略はEVシフトへのコミットメントといえるだろう。