×AI
後期高齢者に特化したコミュニケーションロボットの可能性
ロボット開発で重要なのは技術的視点なのはいうまでもない。だが、社会に広く浸透し、課題解決を担うこともミッションとすれば、使いやすさが最重要項目となる。変なホテルでロボット事業へ参入したハウステンボスが2019年5月31日に販売するコミュニケーションロボット「TELLBO」は、まさに後者を徹底追求し、5年の歳月をかけて誕生した。
技術より使いやすさをトコトン追求
同製品は“簡単”、“安心”、“可愛い(癒し)”をコンセプトに、離れて暮らす親や、日中独居となりがちな親と家族とのコミュニケーションをより簡単にし、やさしく見守りながら癒しも与えられるコミュニケーションロボット(CR)。ハウステンボスで馴染みのあるテディベアを応用した肌触りの良さと、ドアや部屋など4種のセンサでオリジナルにカスタマイズいただけることが特徴となっている。
CR市場は群雄割拠で、大小多くの企業が参戦。ユニークな製品も数多くラインナップされている。そうした中で、同製品の機能面だけを取り上げれば、会話による音声認識はなく、カメラも搭載していない。ホームロボとしての仕様は、ライバル製品と比較しても心もとない印象さえある。
これで激戦区を勝ち抜けるのか。その点について、同社事業開発室武富浩一郎氏は次のように解説する。「CR市場はすでにかなりの激戦区。そうした中で我々が狙ったのは後期高齢者の見守り需要。今後増大する層であり、独居率も高い。そこでこの製品で見守りとコミュニケーション機能を追求し、親子のつながりのキープを支援したい」。対象を絞り込むことで、機能を最適化。その結果が、必要最低限の機能搭載ということだ。
こうしたつながり支援は、モニター付きのスマートスピーカーがあるが、対象が後期高齢者となると、便利さの一方で、使い勝手は微妙になってくる。同製品が、商機を見出したのはその部分だ。つまり、後期高齢者が滞りなく使いこなせる仕様にすることで、見守りツールとして選んでもらう。5年の歳月はそこをとことん追求した足跡といえる。
あえて高機能化しなかった理由とは
音声認識機能を採用しなかったのは「高齢者だとどうしても音声認識がうまくいかないことが多く、あえて伝言預かりに特化した」ため。本体と別にぬいぐるみをレシーバーとしたのは「より正確に聞き取るため近くでメッセージを残してもらうため」。そして、WiFiが一般的なこうした機器ながら、SIMカード対応にしたのは「接続設定を限りなく簡単にするため」と、同製品では高齢者が使うにあたり躓きそうな部分をすべて先回りし、スムーズに使いこなせることを最優先にしてつくり込まれている。
細かい部分では、聞き逃しが多い高齢者のために伝言は2回繰り返すように設定。ぬいぐるみにより愛着を持ってもらうために着せ替えオプションも用意…など、同製品では、技術的先進性よりもあくまでも利用者としての高齢者の立場を最大限に意識して開発が進められた。目的が見守りでありコミュニケーションと考えれば、当然といえるが、こうした製品開発であえて一歩引く重要性を示しているようで興味深い。
もっとも、同製品はあくまで第一号。今後、テクノロジーを積極活用し、進化することを見据えている。そうなれば、AIによる多様な会話や行動分析なども機能に加わり、同製品はより独立性のあるホームロボットとして、高齢社会に必要不可欠なアイテムへと成長していくだろう。同社は方針としてロボット事業の拡張を明言しており、今後が大いに期待できるだろう。
10年後には、ロボットやAIがより当たり前に社会に浸透していることは間違いない。テクノロジーが社会課題を解決し、より良い未来になっているだろう。その時、何よりも重要になるのは、誰もが普通に使いこなせることだ。同製品の開発プロセスは、そうした社会へ発展を遂げていく上での、重要な要素が凝縮されているといえそうだ。
なお、本体価格は3万9,600円(税別=本体1体、ぬいぐるみ1個、ドアセンサ1個、ACアダプタ1個)。通信料は月々1,290円(税別)。別売りアクセサリとしては部屋の温度、湿度、明るさを検知する部屋センサ、人の接近を検出する人感センサ、サムターンカギに対応した鍵センサ(各3,980円)などがある。