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楽しみが広がったら我慢を強いられる――ソフトバンクが「動画・SNS放題」で変えたい“現状”
既報の通り、ソフトバンクは9月6日から新料金パック「ウルトラギガモンスター+」「ミニモンスター」を提供する。
→動画・SNS使い放題+月間50GBで7480円から(割引なし時)――ソフトバンクが「ウルトラギガモンスター+」発表 「月月割」は原則適用不可
特にウルトラギガモンスター+は対象となる動画・SNSサービスのデータ通信量をカウントしない「ギガノーカウント」が大きな注目を集めている。またいずれのパックも2年契約をすると「月月割」を適用できない、いわゆる「分離プラン」になっていることも注目点だ。
ソフトバンクはなぜこれらのパックを導入するのだろうか。8月29日に行われた発表会の様子を見てみよう。
広がったら制限された「楽しみ方」
今から10年前、ソフトバンクモバイル(現・ソフトバンク)は「iPhone 3G」を発売した。今でこそ大手キャリアはいずれもiPhoneを取り扱っているが、当時は事実上ソフトバンクモバイルによる「独占販売」だった。
ソフトバンクモバイルの販売戦略も相まって、iPhoneは非常に良く売れた。これに触発されるように、日本における携帯電話端末の主流は次第にケータイ(フィーチャーフォン)からスマートフォンにシフトしていった。
スマホシフトは生活も変えた。ショッピングや決済、音楽・動画配信、SNSでのコミュニケーション……日常のありとあらゆることを、スマホで済ませることができるようになった。
スマホでさまざまなことをこなすには、通信が欠かせない。便利になればなるほど、どんどん通信は増える。結果として、ユーザーは「常に“ギガ”(通信容量)を気にしなければならなくなり、(便利さとは)相反する問題を抱えるようになった」(ソフトバンク 榛葉淳副社長)。
簡単にいえばユーザーは楽しく使うほどつらさも増すという状況になっているとソフトバンクは見ているのだ。
目指すは「ストレスフリー」
ソフトバンクでは2016年9月に「ギガモンスター」、その1年後(2017年9月)には「ウルトラギガモンスター」と、超大容量パックプランを他社に先駆けて投入してきた。それは「少しずつでもお客さまの不安やストレスを解消できるプログラムを提供したい」(榛葉副社長)」という思いからだという。
両プランに対するユーザーの反応はおおむね良好のようだ。過去1年間に新規契約または機種変更時における両プランの選択率は合わせて70%に達し、ソフトバンクの自社調査ではウルトラギガモンスター契約者の満足度は90%であったという。これはブランドとしての「ソフトバンク」のスマホ契約数が伸びている状況とも合致する(参考記事)。
モバイルデータ通信量は年々増加傾向にあり、現行の「ギガモンスターやウルトラギガモンスターでも足りない」という人が出てきてもおかしくない状況であるのは確かだ。
そこでソフトバンクは「ストレスフリー」をさらに推進するため、データ通信を旺盛にするユーザーが特に使う「動画」や「SNS」に照準を絞って、これらの通信量をカウントしないウルトラギガモンスター+をリリースしたのだ。
質疑応答
ウルトラギガモンスター+は、大手キャリアとしては初めて特定通信を無料とするサービスだ。また2年契約プランの場合、端末購入による料金割引を行わない、いわゆる「分離プラン」となっている。
これらのこともあり、発表会の質疑応答コーナーでは活溌なやりとりが繰り広げられた。せっかくなので、主なやりとりを簡単にまとめた。
新プランは実質「分離プラン」
―― 今回のプランは、端末の購入で割り引きが行われない分離プランの導入と見て良いか。
榛葉副社長 おっしゃる通り、いわゆる「端末分離(プラン)」と考えている。
ただ、従前の「月月割を(付けてほしい)」というお客さまの声もあるので、選択できるようにしている。
―― 分離プランにしても、支払いの総額としては従来プランとあまり変化がないように見えるが、その認識で良いか。
榛葉副社長 端末価格の変動具合にもよるが、基本的には計算上、従来と同等かおトク(安価)な設定となっている。
今回はキャンペーンで(どの通信でも)ギガノーカウントとし、キャンペーン後も8つのサービスが使い放題となっている。内容を(従来よりも)アップグレードした上で同等かよりおトクになるように準備をさせていただいた。
―― 今回、分離プランを導入したのはなぜか。今後、端末の買い替え需要がしぼむことを想定したためか。
榛葉副社長 1番の理由は「お客さまの声」に応えたということだ。
従前から、「ストレスフリー」を目指して、常にお客さまの声を聞き、サービスやプログラムを考えている。その中で、1つの選択肢としてこういうもの(分離プラン)があっても良いのではないかという結論に達した、とご理解いただければと思う。
ただ、あくまでも“選択肢を広げる”ことが目的なので、先ほどの質問で回答した通り、月月割を付けられる選択肢も残している。
―― くどいかもしれないが、なぜそのような声(分離プランを求める声)があったのか教えてほしい。
榛葉副社長 いろいろな利用状況などを調べていく中で、一部にそのような声があった。それを踏まえて「選択肢を広げるべきだ」ということで、今回のプランになった。
自社内・グループ内での「カニバリゼーション」は起こらない
―― 今回のプランで、Y!mobileブランドとのカニバリゼーション(共食い)が起こる懸念がある。何か対策を考えているのか。
榛葉副社長 弊社は「ソフトバンク」と「Y!mobile」のダブルブランドを大切に育ててきた。
今月(8月)、Y!mobileでも発表会を開催した。その際も社内で議論を重ねた上で、いろいろなお客さまに合うような形でブランドを分け、ニーズに合ったプランやサービスを設定している。
100%完璧とは行かないかもしれないが、いろいろなお客さまにY!mobileとソフトバンクを選んでもらえるように検討をしてきたので、(カニバリゼーションの)心配はないと考えている。
―― 今回の発表では(動画と)SNS放題を前面に出しているが、こういうことは(子会社化した)LINEモバイルでも以前からやっている。
LINEモバイルが少しかわいそうな気がするのだが、すみ分けは大丈夫なのか。
榛葉副社長 私たちはソフトバンク、Y!mobileに加えてLINEモバイルの3つのブランドを持っている。
当然(ブランド間の)かね合いは検討していて、それぞれのユーザー特性を見る限りは、十分に分別(差別化)できると考えている。
5Gに向けた中国ベンダーとの関係について
―― 最近、米国において中国の通信メーカーの製品を閉め出す動きがあり、オーストラリアでも5G(第5世代移動体通信)基地局について同様の動きを見せている。世界や日本でも同様の検討しているという報道もある。
御社も4G(LTE)の通信機器や5Gに向けた動きの中で中国の通信メーカーと協力関係を構築してきたと思うが、今後どうするのか。
榛葉副社長 現時点では(中国メーカーの通信機器の)安定性が立証されているからこそ、私たちはサービスを提供している。
世界の動向は注視しているが、現在(日本政府などにおいて)正式に決まっていることはない。監督省庁の動きを見つつ、討議をしながら(5Gにおいても中国メーカーの機器を使うかどうかを)検討していきたい。
菅官房長官の「発言」について
―― 菅(義偉)官房長官の「携帯料金を4割下げられる」発言が話題を集めている。今回発表したプランで政府の「期待」に応えられるのか。
榛葉副社長 今回に限らず、十数年前に(ボーダフォンを買収して)携帯電話事業に参入した頃から、私たちはプライスリーダーとしての自負を持って(値下げ)に取り組んできたし、(ウィルコムとイー・アクセスを源流に持つ)Y!mobileという廉価なサービスを提供するブランドも育ててきた。
私たちソフトバンクはギガモンスター、ウルトラギガモンスター、そして今回のウルトラギガモンスター+とお客さまがおトクに使えるようなプランを(他社よりも)先進的にリードして作ってきた。今回発表した他のプログラム(ミニモンスター)も、それにマッチするものだと考えている。
ご質問いただいたので申し上げると、使い方による部分もあるが、ウルトラギガモンスター+は通信料金の部分では(ウルトラギガモンスターと比較して)25~30%超ぐらいディスカウント(割り引き)されると考えている。(通信料金を下げたいという政府の要望には)まさに応えているのではないか。
この(25~30%超の割り引きという)数字は、昨年(2017年)私たちが努力して削減した(値引き)数字と比較している。この料金、ミニモンスターの料金、そしてY!mobileの料金と、全体的に見るとソフトバンクは(政府と)同じ方を向いているのではないかと思う。
―― 先ほどの質問と一部重複するが、菅官房長官の発言を含めて、携帯電話事業者は政府から料金の値下げ圧力を掛けられた状態にあると思う。このことについて、どう受け止めているか。
榛葉副社長 私たちは監督省庁である総務省から指導を受けつつ、会話をしながら事業に当たっているが、今回の(菅官房長官の)発言を含めて、政府視点では日本国民のことを考えて発言しているのだと思う。一方で、私たちはキャリアとしてユーザーの声に基づいていろいろな判断をしている。
表現や具体的な数字は別として、私たちと政府は最終的には同じ「ユーザー(国民)」という「ゴール」を見ているのではないかと思う。私たちとしては(政府の声も)検討に入れつつ、それでもユーザーの声を一番大切にしたい。
より一層、ユーザーの声を真摯(しんし)に受け止めて、できることを1つずつやっていきたいと考えている。
―― 今回のプランは「4割値引き」とまではいえないと思うが、今後さらなる値引きを検討することはないのか。
榛葉副社長 先ほども(25~30%超の値引き効果を見込んでいると)数字を出して話をしたが、議論をする上で「Apple-to-Apple」(※)は非常に重要なことだと思う。
※Apple(s)-to-Apple(s):直訳すると「リンゴとリンゴ」。意訳すると「同一条件での比較」という意味で、ビジネス上の英会話では比較的よく出てくるフレーズ
「4割下げられる」というが、その根拠が本当にApple to Appleなのか、同じ土俵の上で比較しないと議論がおかしなことになってしまう。キャリア事業はプライスはもちろんだが、クオリティも重要な要素であり、両者のバランスをどうするのかという問題もある。
海外に行くと、通信でストレスを抱えることがある。(モバイル通信環境が比較的良好であるとされる)ヨーロッパでも、ちょっと(市街地から)外れるとなかなかサクサク使えないというようなことが多い。日本では、現在の通信料金収入の中で4G(LTE)で全国をほぼカバーし、(一定水準の)クオリティを保ちつつ、いろいろなサービスも提供している。
「(値下げ額が)4割に行っているかどうか」という数字も大切かもしれないが(クオリティやサービスといった)トータルで判断し議論するということも大切だ。
―― プライスリーダーを自負するソフトバンクが、最近政府から「(料金が)高すぎる」「4割下げろ」という指摘を受けることについてどう思うか。
榛葉副社長 繰り返しにはなるが、私たちとしては(政府の反応を)注視しつつ検討は進めていくが、最終的には「ユーザーの声に応えて」ということになる。
ただ「安かろう悪かろう」では困る。今回のウルトラギガモンスター+のようにスマホライフをもっと楽しみたいという人向けのプランを充実しつつ、「もっと廉価に」という人にはY!mobileの中から思い切ったものを提供したり、ソフトバンクブランドが良いというのであればミニモンスターを用意したりしている。サービスラインアップを強化し、お客さまの声を大切にしていきたい。
ただ、(大切なのは)価格だけではない。スマホは生活必需品になっているので、トータル的な面を考えつつベストなソリューションを提供していきたい。
ギガノーカウントの「懸念点」
―― ギガノーカウントの実現に当たって、データはどのように取り扱うのか教えてほしい。
例えばネットワーク内で(動画や静止画の)再圧縮や解像度の変換といった処理を行っているのか。
榛葉副社長 この点については、私たちの重要な点(差別化要素)なので具体的なコメントは控えたいと思う。
―― ギガノーカウントは対象サービスを(ユーザー側で)選べない。そうなると「ネットワーク中立性」に関して問題が生じると思われる(参考記事)。
どのような議論を経て、今回のプランの導入に至ったのか。
榛葉副社長 ネットワーク中立性に関して、私たちは“オープン”という立場を取っている。
今回対応を発表した8サービスについては、提供事業者と(個別に)話をさせていただき、賛同していただいて合意に至った。私たちの技術的要件とのマッチングが必要ではあるが、(他の)提供事業者さんとは是非に(話し合いをさせていただきたい)と思っている。
提供に当たっては、総務省に事前に確認して「この形態であれば問題ない」ということで、相談しつつ進めている。
―― ギガノーカウントにおける通信内容の識別はどうやっているのか。DPI(※)をしているのか。
※DPI(Deep Packet Inspection):「パケットフィルタリング」の一種で、ネットワーク側でデータ通信の内容を検査すること(参考記事)。データ料金減免サービスをしているMVNOサービスでは、この方法で通信内容を判断していることが多い
榛葉副社長 各サービス(アプリ)の“識別子”を見て判定している。それ以上は勘弁いただきたい。
―― 今回、ギガノーカウントを50GBプランのみに提供する形となるが、より容量の低いプランに提供する予定はないのか。
榛葉副社長 現時点ではこのプラン(データ定額 50GBプラス)でのみ提供する。