東洋経済オンライン
スバリストは新型「レヴォーグ」をどう見たか
スバルは2020年10月15日、新型「レヴォーグ」の発表をオンラインで行った。今までスバルの屋台骨を支えた「レガシィツーリングワゴン」からレヴォーグへ進化し、その2代目となる今回の新型レヴォーグ。その開発コンセプトは「継承と超・革新」だ。約30年にわたって続いたレガシィツーリングワゴンの文化を継承し、超・革新とした題した技術を投入した。
歴史を遡ると、初代レガシィが登場したのは、1989年だ。それまでの「レオーネ」から一新したスタイリングと性能を持ったレガシィは、つい最近生産が終了した「EJ型エンジン」を搭載した初のモデルでもあり、そのターボエンジンを積んだ「ツーリングワゴンGT」が大ヒット。ステーションワゴンブームを牽引した。
その後もレガシィは、セダン/ワゴンと2タイプのボディを持ち、水平対向エンジン+AWD(全輪駆動)のパッケージを進化させ、スバルの屋台骨としての存在感を強めていった。
しかし、5代目になると、主戦場は国内ではなくアメリカ市場となり、ボディ全体をサイズアップ。デザインも、4代目までのシャープでスポーティーなものから、スクエアなデザインに変更。これによりアメリカでは販売を伸ばしたが、国内では販売面で苦戦をしいられた。
ワゴン専用車として開発されたレヴォーグ
そしてレガシィは、セダンの「B4」とSUVルックの「アウトバック」のみとして、ツーリングワゴンを廃止。国内向けに、サイズを一回りコンパクトにしてスポーティーな性格を与えたレヴォーグを2014年に誕生させた。
レヴォーグは、レガシィとは異なりセダンを持たず、ツーリングワゴン専用車として開発。エンジンは、それまでのEJ型に代わり新開発の「FB16型」水平対向4気筒1.6リッターターボ(170PS/25.5kgm)と、「FA20型」水平対向4気筒2.0リッターターボ(300PS/40.8kgm)の2本立てとなった。
2016年の改良では「STI Sport」と呼ばれる、スバルのモータースポーツを支えるSTI(スバルテクニカインターナショナル)がチューニングを施したグレードが登場。マイナーチェンジを繰り返しながら販売数を伸ばしていたが、世界的な環境性能への対応や新型アイサイトの搭載などを行うため、モデルチェンジが行われた。
2代目となる新型は、エンジンを新開発の「CB18型」に刷新し、ボディサイズも若干大きくされている。
CB18型1.8リッターターボエンジンは、FB16型から排気量アップを行ったもので、最高出力5kW(7PS)、最大トルク50N・m(5.1kgf·m)のアップなる。トランスミッションはリニューアルされたCVT「リニアトロニック」だ。燃費は、先代の1.6リッター車を上回る16.6km/リッター(JC08モード)、13.7km/リッター(WLTCモード)。
ボディサイズは全長で65mm、全幅で15mm大きくなった。使いやすいボディサイズの中で、ラゲッジスペースはツーリングワゴンらしい容量を確保している。荷室容量は39リッター増えて561リッターとなった。ボディサイズは、初代レヴォーグでダウンサイズしたが、再び大きくなり、5台目レガシィに近いものに。しかし、ツーリングワゴンとしての価値、ユーティリティは継承していると言える。
車体には、SGP(スバルグローバルプラットフォーム)と呼ばれる次世代スバル車の基礎となるプラットフォームが開発された。新たにフルインナーフレーム構造を採用し、ボディ剛性を向上したのがポイントだ。筆者はサーキットで試乗して、そのボディ剛性の高さを実感している。変な揺れやボディがよじれる感覚がないのだ。
スバル初の電子制御ダンパーを装備
「超・革新」として進化したのは、ボディだけではない。STI Sportには、新たにZF製の電子制御ダンパーが採用された。スバル車初となる電子制御ダンパーは、ComfortやSport+など5つのモードがあり、走りの性格を変化させる。開発責任者の五島賢氏は、これを「キャラ変(=キャラクターが変わる)」を呼ぶ。
サーキットでの試乗でもその変化は如実に感じられ、Comfortでは高級サルーンのような快適性を実現しながら、Sport+では本格的なスポーツドライビングが楽しめるハンドリングが体感できた。
もう1つ、「超・革新」の部分がある。それは、今やスバルの代名詞となった先進安全機能「アイサイト」の進化だ。
1999年に3代目「レガシィランカスター」に設定されたアイサイトの全身となる「ADA(アダクティブ・ドライビング・アシスト)」の登場からおよそ20年が経ち、名称は「アイサイトX」となった。
プリクラッシュブレーキや全車速追従機能付きクルーズコントロールといったアイサイト コアテクノロジーに、時速50キロ以下で動作する渋滞時ハンズオフアシストや自動で車線変更を行うアクティブレーンチェンジなどがプラスされた。3D高精度地図データと、準天頂衛星システム「みちびき」やGPSから得られる情報を利用することで実現した機能だ。
なお、アイサイト コアテクノロジーは全車標準装備だが、さらに進化した高度運転支援システムのアイサイトXは、選択装備となる。
グレードは「GT」「GT-H」「STI Sport」の3つで、それぞれにアイサイトXが装備される「EX」がラインナップされる。
それまでの1.6リッターモデルが、およそ290万~360万円だったことを考えると、価格は全体的に高くなった。特にアイサイトX搭載車は、38.5万円高となる。以前のレガシィでは、400万円でトップグレードに手が届いたが、今回は400万円でも少し足りない。
しかし、先の発表会で公表された8月からの先行受注の内訳では、93%がアイサイトX搭載車だったという。また、STI Sport EXが54%と、最上級グレードが半数以上を占めていた。
現在、レガシィツーリングワゴンと初代レヴォーグを所有している筆者の感覚と、数多くのスバル車ユーザーを取材している経験からすると、スバル車は1番高いグレードを買うのが結果的によいと思われることが多い。
その理由は、スバル車に求めるものが運動性能であることはもちろんあるが、先進技術に対する期待、上位グレードほど人気が高いためのリセールバリュー(再販価値)の高さもある。先行受注という実車を見ない中で購入したユーザーの多くも、そうした期待を持っていたのではないだろうか。
実際、サーキット試乗を経験した筆者も、STI Sport EXに最も心を惹かれた。アイサイトXの先進性と電子制御ダンパーによる走りのよさは、価格に見合った選ぶ価値のあるものだと感じている。
スバルのこだわり「0次安全」は…
スバルが掲げる安全思想の中に「0次安全」という言葉ある。それは、車内からの見切りのよさだ。確かに、運転席からフロント/サイドの視界は良好だ。
だが、後方部分はそれまでの水平基調ではなく、ハッチバック車のように切り上がった形状となっている。
これにともなって後方のサイドウインドウは小さくなっており、運転席から左後ろを見るとピラーで隠れる部分が多いと感じた。0次安全を大切にしてきたスバルの中にあって、少々残念だ。
視界を補うために360度センシングを可能にしたセンサー類やカメラが搭載されているが、もう少しウインドウラインを下げて、水平基調のツーリングワゴンらしいデザインでもよかったのではと思う。
こうした気になる部分は目を瞑るとしても、アイサイトXは大いに魅力的。筆者の中では、まだ購入に至る心の導火線に火はつかないが、サーキット試乗で体験した限り、現時点で購入しても後悔はないだろう。ただし、今注文しても納車は年明けになると聞く。待ち時間が長くなるのは、覚悟が必要だ。