プレゼンテーション「(株)NTTe-Sports 設立記者会見」

株式会社NTTe-Sports_NTT東日本 / 技術

(株)NTTe-Sports 設立記者会見

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本丸は“eスポーツプラットフォーム”による全国制覇! NTTe-Sports設立会見詳報

日本のジャイアント、ついに立ち上がる。その狙いと野望を解説する

 NTT東日本は、既報の通り、都内で記者会見を開催し、eスポーツソリューションを提供する新会社「NTTe-Sports」を1月31日に設立することを発表した。

 発表会の模様はライブ配信され、発起人のNTT東日本を皮切りに、出資企業のトップが勢揃いし、後半に行なわれたエキシビションマッチのゲストには、タレントでG-STAR Gamingプロデューサーの倉持由香さんや、Team Liquid所属のネモ選手も招かれるなど、2020年の日本のeスポーツ界を勢いづけるような会見だった。

 会見場の最後列にはTV局のカメラが集結し、eスポーツの発表会ではまだあまり見られない新聞記者も数多く参加しており、発表会が始まる前から、“NTTが動く”ということの重みを実感することができた。

 その一方で、最前列で会見に参加していて感じたのは、会見の内容が抽象的かつ難しすぎてキチンと理解できた記者あるいは視聴者は少なかったのではないかということだ。本稿では、発表会や発表会後のぶらさがり取材で得られた情報を元にNTTe-Sportsの発表内容をかみ砕いて解説したい。

 まず、NTTe-Sportsは、日本におけるeスポーツマーケットの成長を受け、今後eスポーツを展開したいと考える自治体、企業、団体に向けてeスポーツソリューションを提供することを目的に設立される会社だ。

 設立の最大のモチベーションになっているのは、“eスポーツは円滑に実施することそのものが難しい”ということだ。このことをeスポーツに関わるあらゆる関係者が気づきはじめた。たとえば、野球なら極端に言えば広場とバットとボールがあれば成立するが、eスポーツは大会を行なうための会場や機材のみならず、競技となるゲームタイトルの使用許諾、観戦するための配信設備、そしてそれらをすべてリンクするためのインフラが必要になる。当然スタッフも野球好きのオヤジ1人がいれば成立するような話ではなく、延べで何十名、場合によっては100名を超えるプロフェッショナルが必要になる。

 1つの大会を実施するためには、何社もの関係者と調整を行なう必要があり、若い世代を集めるための催しのはずが、予算や人員の確保以前に、そうした各種調整ごとのハードルの高さゆえに開催を断念する、という残念な風景が全国で繰り広げられてきた。これをNTTグループの力でまるっと解決する。そのための枠組みがNTTe-Sportsとなる。

 といっても、社内ベンチャー的に「なんかeスポーツが盛り上がってるからちょっとやってみるか」というレベルの話ではなく、最初から必勝の布陣で臨む。

 代表取締役社長には、NTT東日本代表取締役副社長の澁谷直樹(しぶたになおき)氏、取締役副社長には、“かげっち”の名前で知られる元「ストリートファイター」シリーズプレーヤーであり、闘劇をはじめ、数々の大会運営に関わり、直近ではコミュニティ大会「Fighter’s Crossover」を運営している影澤潤一氏が就任する。

 影澤氏がおもしろいのは、格闘ゲーム界では名の知られた元選手/コミュニティリーダーでありながら、現役のNTT東日本社員であるところ。このことを耳にしたNTT東日本代表取締役社長の井上福造氏の鶴の一声で大抜擢が決定したという。かくしてプロシーンを含めたeスポーツコミュニティに信頼を置かれている実績豊富なコミュニティリーダーが、現場のトップに就任するという極めてユニークな事態となっている。

 先述したように、NTTe-SportsはNTT東日本単独の動きではなく、日本のもう半分を担うNTT西日本も参画している。そのほかエヌ・ティ・ティ・アドやNTTアーバンソリューションズといった関係するNTTグループ各社も名を連ね、さらにスカパーJSATやタイトーも出資するなど、設立の時点でかなりの協力体制が整っていることを伺わせる。

 ポイントなのは、NTTe-Sportsは、“eスポーツ大会を企画・運営する会社ではない”ということだ。ここについては発表会で誤解している記者がいたが、そういう単純な話ではなく、「NTTe-Sportsに相談すればeスポーツ大会が実施できる」というワンストップソリューションを提供することを目的とした会社となる。

 NTTグループの力の源泉である全国津々浦々に張り巡らされた光ファイバー網や、今後スタートするローカル5G網をコアバリューとして、パートナー各社が持つハードウェア、ソフトウェア、サービス、ビッグデータ、AI技術といったICT(情報通信技術)をパッケージングしてeスポーツに注ぎ込む。まさにNTTグループの総力とネットワークを活かした展開がNTTe-Sportsの真骨頂となる。

 このためJCGやRIZeSTといった既存のeスポーツ大会運営会社は「コンペティターではなく、協業パートナーとして捉えている」という。先日行なわれた「東京eスポーツフェスタ」のような大規模eスポーツイベントはその都度パートナーと共に運営していく方針は変わらないようだ。

 ただし、その一方で、地域活性化、eスポーツを活用した地方創生も旗頭に掲げており、また、NTT東西の活用リソースとして全国都道府県にある局舎スペースを挙げていることから、地方に関しては自社単独でコンサルティングから企画・運営まで行なうこともあるようだ。全国にeスポーツを展開できるインフラとスペースを備えているののがNTTグループの強みであり、地方に関してはNTTe-Sportsが圧倒的なシェアを占める状況になる可能性が高い。

 その流れを加速させる取り組みとして、2020年夏には、秋葉原UDX内にNTTe-Sports単独のeスポーツ施設もオープンする。「未来技術を活用した先端的な施設になると共に、地域拠点と繋ぎ、新たなシーンを創出」としており、地方の大会会場とこの東京の拠点を繋ぎ、東京からプロ選手にゲスト出演して貰ったり、東京対地方対抗戦を実施したり、様々なことに活用できそうだ。いずれにしても既存のeスポーツ関連企業にとって、NTTe-Sportsは最強の援軍であると同時に、最強のコンペティターになるのは間違いないだろう。

 発表会では、「(NTTe-Sportsでは)どういうゲームコンテンツが使えるのか? あるいは使えないのか?」という恐ろしいほど的外れな質問があがっていたが、高速広帯域低遅延の通信網は、大会を主催するゲームメーカーが喉から手が出るほど欲しいものだ。特殊な事情がない限り、ほぼすべてのゲームメーカーがNTTe-Sportsの取り組みに賛同するはずだ。

 ただ、個人的にNTTe-Sportsが恐ろしいなと思ったのは、その部分ではなく、その先の話だ。NTTe-Sportsのビジネスは上記の話ですべてではなく、遙かその先まで考えられている。NTTe-Sportsでは、このワンストップによるeスポーツソリューションを“プラットフォーム”として提供するとしている。つまり、NTTe-Sportsのソリューションを利用することで、NTTe-Sports独自のコンテンツ、サービスの利用が可能となる。

 会場ではその一例として、富士通との業務提携による自動配信システム「CLIP-LIVE」を紹介していた。「CLIP-LIVE」は、AIを活用したライブ配信システムで、全自動で大会の戦況とハイライトシーンをクローズアップしてくれるというサービスで、実況解説者がいなくても、あるいは観戦者があまり競技種目に詳しくなくても、試合の見所を掴むことができる。今回は「ぷよぷよeスポーツ」を使ってデモが行なわれたが、このアプローチそのものは、あらゆる競技種目で適用可能で、このAIやビッグデータを活用したサービスこそがNTTe-Sportsが提供するプラットフォームの強みとなる。

 そのAIやビッグデータを活用したサービスで大きな期待が寄せられているのが人材育成だ。現在、eスポーツには教育者が足りていない。スポーツの分野では、学校教育を経ることで選手と教育者が一定数育成されるようなカリキュラムができあがっているが、eスポーツの分野はまだそこが追いついていない。結果として、学校の部や同好会、アマチュア/プロチームにおいて教育者が絶望的に足りておらず、ゲーム好きの先生が感覚で教えていたり、我流の練習に終始しており、上達するための適切なステップを踏むことができていないでいるプレーヤーが多い。

 NTTe-Sportsが考えているのは、AIとビッグデータを活用することで、AIをeスポーツの教育者とするイメージだ。というと、自律するアンドロイドが生徒にeスポーツを教えているSF的なイメージを想像したかもしれないが、そういう未来的な話ではなく、ビッグデータを活用したAIによる実況解説システムや、リプレイデータにAIを被せて、試合を振り返りながら、プロ選手ならこのシーンでどう動いたか、あるいはどう動くことが勝利に結びついたのかをビッグデータから導き出してくれるといったソリューションだ。

 今回、サードウェーブがNTT東西と業務提携し、高速通信回線サービス「サードウェーブ光」の提供を開始するが、サードウェーブがNTTと提携を決めたのも、AIとビッグデータを活かしたプラットフォームに魅力に感じたからだという。現在、学校の現場では雨後の竹の子のようにeスポーツ部/同好会が生まれつつあるが、その一方で教育者が足りない問題は解決していない。NTTe-Sportsが考えるAIとビッグデータを使ったソリューションの提供がはじまれば、その問題を部分的にも解決できるかもしれず、そうなれば大会参加を希望する高校が増えるかもしれない、というわけだ。

 ちなみにNTTe-Sportsが開発を進めている“eスポーツプラットフォーム”は、4月頃全容を告知予定で、提供開始は7月頃を目指している。その中身にAIとビッグデータを活用したソリューションが含まれているのか否か、その際のビジネスモデルがどうなるのかは現時点では教えて貰えなかったが、eスポーツ後進国である日本において、NTTe-Sportsから世界に先駆けた画期的なeスポーツソリューションが生まれる可能性がある。わくわくしながら正式発表を待ちたい。