日刊ゲンダイDIGITAL
ヤフーとLINEが志向する社会課題解決はビジネスになるのか
ヤフーを展開するZホールディングス(ZHD、川辺健太郎代表取締役社長)とLINE(出沢剛代表取締役社長)の経営統合が18日、正式に発表された。
あるLINEの中堅社員は「弊社が日本企業になるという噂は流れていました」と話す。LINEの親会社は韓国のNAVERだからだが、今回はNAVERとソフトバンクが50%づつ出資する新会社を設立し、両社がぶらさがり、NAVERは連結をはずしてソフトバンクが連結することになった。
ヤフーとLINEが経営統合した場合、数多くの選択肢とシナジーの可能性があるが、具体的には「経営統合してから」と川辺社長は記者会見で繰り返した。来年10月をめどにした経営統合には、さまざまなハードルがあるからだ。
とはいえ、川辺社長が「防災・減災の情報支援サービス」、「日本の社会課題解決をしていくようにデータを使っていく」と具体的なキーワードも会見で示していた。
■両社が関わったという災害情報アプリ
この点についてLINE関係者は、「今年10月に公開された『長野市2019台風被災者支援』のLINEボットはヤフーとLINEが一緒になってつくっているAI協議会の作品です」と話す。
AI防災協議会(江口清貴・理事長)は、まさに産官学が防災・減災対策をAI技術やSNSを活用して実現しようとする団体で、今年6月に政府が音頭をとって立ちあげた。IT企業で参加しているのは両社だけだから、企業マインドが近いのだろう。
今秋の相次ぐ台風災害でも、情報インフラの問題は指摘されていた。そのような背景の中で、災害情報に特化したLINEのAIチャットボットを長野市に先んじて、今秋には千葉県市川市も導入している。
とはいえこれが今後大きなビジネスになっていくのか。
先のLINE関係者は「自治体が負担する導入開発費は十万円単位です。また、防災情報はギリギリラインで、災害情報で課金をすることは難しいでしょう。防災・減災の情報支援はCSR(企業の社会的責任)的な対応になるではないでしょうか」と話す。
ただ前出の市川市は全国で初めて、LINEと地域ICT化推進事業の包括契約をしている。今年4月からLINEによる住民票申請実証実験を開始し、24時間どこでも住民票を申請できるようになっている。さぞかしマイナンバーを推進する総務省は苦々しく思っていることだろう。
さらに申請書や施設使用料についての手数料の支払いも、「LINE Pay」によるキャッシュレス化をすすめている。公共サービスの通信インフラとして、LINEが機能し始めようとしているのだ。
GoogleやYouTubeなど無料サービスを提供するITガリバーの多くは、価値を創造すれば利益は後からついてくるというビジネススタイルで巨大企業化した。社会課題解決を念頭に置くLINEやZHDもその路線を狙っているのだろう。