電子決済マガジン
PayPayとLINE Payは当面存続、経営統合後のサービスの姿は来年10月まで持ち越しに
サービス統合の検討は来年10月以降に
注目を集めたのが、それぞれPayPayとLINE Payの名前で両社が凌ぎを削ってきたスマホ決済サービスの行く末について。現状コード決済の取扱高で1位、2位のポジションを占めると目される両社のサービスが統合されれば、重複ユーザーはあるにしても圧倒的シェアを誇るサービス網が誕生することになる。
結論から言えば、スマホ決済に限らず、メディア、コンテンツ、フィンテック/金融、コマース、AIなど両社が提供中のすべてのサービスに関して、具体的にどのように集約・統合していくのかについては、経営統合が完了する来年(2020年)10月以降に持ち越しとなった(写真2)。背景には、両社のサービスを合計すれば1.5億人に迫るユーザー数を抱え、時価総額で1兆円を超える巨大企業になるともあって(写真3)、公正取引委員会による独占禁止法関連のチェックをはじめ、さまざまな法令確認や許認可等の審査に約1年の期間を要する見通しであることがある。
他方で、お互いに競合・競争関係にある現サービスも多数あることから(写真4)、統合会社には取締役会の直下に「プロダクト委員会」を設置することを表明した。この場で統合会社グループが提供するプロダクトの意思決定を行うという。
プロダクト委員会のメンバーは、出身別に、ヤフーから川邊健太郎氏、小澤隆生氏、宮澤弦氏、坂上亮介氏、藤門千明氏の5名、LINEから慎ジュンホ氏、出澤剛氏、舛田淳氏、黄仁埈氏、朴イビン氏の5名が就任する(任期は3年間)。そのうち、同委員会の責任者としてCPO(Chief Product Officer)を選任するが、統合完了直後のCPOは慎ジュンホ氏となることが明記された。仮にプロダクト委員会の決議が可否同数となった場合には、LINEの慎氏が最終決定することになる。
「スマホ決済は3〜5%にとどまっており、まだまだダメ」
前記の通り、結論は来年10月に持ち越しのため、PayPayとLINE Payの行方は発表される由もないのだが、それでも前日の11月17日に登録ユーザー数が2,000万人の大台を突破したPayPayの好調ぶりと話題性から、記者の質問は再三、両サービスの今後に及んだ。
Zホールディングスの川邊 健太郎(かわべ・けんたろう)代表取締役社長CEO(写真5)の口から出たのは、「今年、政府の後押しもあってかなりキャッシュレスが進んでいるが、われわれが独自に掴んでいる数字では、『キャッシュ(現金)』が7割で、『レス』は3割でしかない。その3割の中でも、クレジットカードが最も大きくて、次いで電子マネーが占めている。われわれを含めたスマホ決済はまだ3〜5%にとどまっており、まだまだダメなんじゃないか」との現状認識だ。
LINEの出澤 剛(いでさわ・たけし)代表取締役社長CEO(写真6)には「スマホ決済が赤字の積み重ねとなり、LINE側はそれがきつくて(経営統合へと気持ちが動く)後押しになったのでは?」との質問も飛んだが、「個別の事象というよりは全体感で決めた。競争環境の激化はあるが、もっと大きなことが起きている」と回答し、米中のGAFA・BATと比べてあまりにもスケールが小さい現在の状況への危機感が経営統合に動いた要因だったと説明した(写真7)。
PayPayとLINE Payの両スマホ決済サービスは、少なくとも来年の10月までは併存するわけだが、とはいえ、1年後に経営統合が完了した暁には間違いなくサービス面での変化が起こることがはっきりしている。果たして向こう1年間はどのような展開になっていくのか。
「まだお互いに切磋琢磨していく間柄だ。(ヤフーの)社員には『思いっきりLINEと戦え』と話した。言うなれば『花嫁武者修行』を両社でやっていくみたいな感じ」(川邊社長)
「経営統合完了までには1年かかるが、その間、具体的なステップは取れない。それまでに成長しておこうと、社員には話した」(出澤社長)
スマホ決済には限らないが、川邊社長からは「Yahoo!はライセンスの問題もあって海外進出もできない」とのコメントもあった。その点では、すでにアジアに広がりを見せている「LINE」のブランドが生きてくる場面も大いにありそうだ。
スマホ決済の2大サービスが今後どのような形でサービス強化を図っていくのか、そしてどのような形で事業を安定軌道に乗せていくのか。「世紀の経営統合」の一方で、スマホ決済については引き続き本質的な課題が残りそうだ。