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ヤフー・LINEの経営統合で迫られる、「稼げるアプリ」の取捨選択
「大きなことを一緒にやろう」
川邊社長が新年会でラブコール
「大きなことを一緒にやろう」――。
Zホールディングス(HD、旧ヤフー)の川邊健太郎社長兼CEO(最高経営責任者)は、副社長だった数年前から、LINEの出澤剛社長兼CEOにこうラブコールを送っていた。話を持ち掛けるのは、年に1度の個人的な新年会の席上だ。いつもは「相手にされず、笑ってすまされた」(川邊社長)。だが、季節を少し遅らせて開催した今春の新年会では、反応が違った。「そうでしょうね。話してもいいかもしれませんね」。出澤社長がこう応じたことで、日本のIT業界を揺るがす統合話が動き出した。
ソフトバンクグループでZHD傘下のヤフーと、メッセージアプリ運営大手LINEが経営統合することで18日に基本合意した。ZHDの親会社のソフトバンクと、LINEの親会社である韓国ネイバーが50%ずつ出資して合弁会社を設立。その傘下にZHDを置き、ヤフーとLINEを子会社にする。12月に統合に関する最終契約を締結し、2020年10月の統合完了を目指す。
「できなかった課題を解決しないと意味がない」
“100%賛成”した孫正義氏の助言
両トップの会合がきっかけとなり、6月中旬から親会社のソフトバンクやネイバーを交えて提携の可能性を協議し、8月上旬に経営統合へと検討内容が発展した。9月にはソフトバンクグループの孫正義会長兼社長に、川邊社長が経営統合案について説明している。その場で、孫会長は「100%賛成だ。日本やアジアのために、スピーディーに進めるべきだ」と賛同。そして、「ユーザーのためになることをしないと誰からも支持されない。両社が一緒になり、今までにできなかった大きな課題を解決しないと意味がない」と助言したという。
8200万人のユーザーを抱えるLINEは、従来は自前路線を貫き、スマートフォン上であらゆるサービスをワンストップで手掛ける「スーパーアプリ」を目指していた。
今回心変わりした理由について出澤社長は、「グローバルなテックジャイアントという競合の存在と、AI化のスピードへの危機感があった。LINE一つであらゆることが実現できるスーパーアプリ戦略をとってきたが、時間と共に強いプレイヤーが出てくる。今手を打って次のステージに進むべきと思うことがトリガーになった」と説明する。
会見では実際には社名こそ名指ししなかったものの、統合後のZHD&LINEの規模と、米アルファベット(グーグル)やアマゾン、フェイスブック、中国アリババ、テンセントの時価総額や営業利益などの数字を比較。「現状で2社が一緒になっても、営業利益や従業員数、研究開発費はけた違いの差。ネット産業は人・カネ・データが強いところに集約してしまう、強いところがもっと強くなる産業構造だ」と出澤社長は危機感を露にした。
経営統合のシナジーについて、ヤフーには約6700万人のユーザーと300万社の法人顧客が、LINEには8200万人のユーザーと350万社の法人顧客がいることをアピール。「重複ユーザーはいると思うが、LINEは若年層でスマホアプリでの利用、ヤフーはシニア層でPC利用という補完関係にある」と川邊社長は説明した上で、「最大のシナジーは両社のサービスだ。ヤフーにはメッセージアプリがないがLINEは国民的なメッセージアプリ。一方でLINEはeコマースにそれほど注力していないがヤフーは頑張っており、お互いに補えるシナジーがある」と強調した。
一方、キャッシュレス決済の分野では、お互い火花を散らす競合だ。「LINEペイ」は14年にサービス開始したが、昨秋デビューしたソフトバンクグループの「PayPay(ペイペイ)」が支払額の一部を還元する「100億円キャンペーン」を連発して猛追。LINEペイも今年5月に「300億円祭り」で対抗し、体力勝負の消耗戦に突入している。
LINEの19年12月期第3四半期までの9カ月間で、売上高1667億円に対して営業赤字は275億円。広告などのコア事業は249億円の営業黒字だったのにもかかわらず、LINEペイを含む戦略事業が524億円の営業赤字で、LINEペイの出血が大きな痛手になっており、今回の経営統合を“LINE救済”とみる声も業界では根強い。
キャッシュレス決済の競争激化が経営統合へ与えた影響について、出澤社長は「個別の事象というよりも、全体の戦いの中で大きな手を打つべきというのが率直な気持ち。パーツの1つとして(キャッシュレス決済の)競争激化はあるが、それはトリガーでではない」と主張したが、統合の中身を見れば本音とは受け取れない。
「対等の精神」を強調するも実質は
LINEのソフトバンクグループ入り
今回の会見で繰り返し強調されたのは「対等の精神」という言葉だ。統合に伴うハレーションを抑え込みたいのだろう。「実はLINEのサービスが大好きで、ヘビーユーザー」と持ち上げるなど、川邊社長は会見の随所でLINEに配慮するかのような言葉を連発した。
だが企業の規模では圧倒的にヤフーの方が大きい。直近1年間の決算では、ZHD(19年3月期)は売上高9547億円、純利益786億円に対し、LINE(18年12月期)は売上高2071億円、純損失37億円と赤字だ。
統合後のZHDでは、川邊社長と出澤社長の両者が「共同CEO」に就任するとはいえ、統合後の社長と共同CEOを兼任するのは川邊氏だけだ。LINEはソフトバンクの連結子会社になり、実質的にLINEはソフトバンクグループに飲み込まれることになる。
出澤社長は「川邊氏を始めZHDの経営陣と深い議論をしたので心配していない。LINEらしいものづくりを一緒にやっていこうと共感をいただいて今日に至った」と説明。ただ、統合後の両社の各種サービスの在り方について、「統合完了後に話し合う」と両社長は明言を避けた。
対等の精神という言葉は美しい。しかし、統合の過程では両社のサービスをシビアに判断し、取捨選択が必要となってくる。とりわけ“営業力”が自慢のソフトバンク傘下のヤフーは、検索や広告という共通基盤の上に、ショッピングなどのサービスを展開してアプリの収益化に成功している。
一方のLINEは、8200万人の顧客基盤を抱えながらも広告やゲームを除けばマネタイズに手をこまねいているように見える。LINEのメッセージアプリ以外のサービスは、マネタイズに長けたソフトバンクグループのものに寄せられていく可能性が高い。サービスの整理に伴う、衝突を避けられない泥くさい作業をいかにスピーディーに進められるかが、統合の成否を握っている。
ダイヤモンド編集部では11月25日から全7回に渡って、ソフトバンクグループの緊急特集を予定している。ソフトバンクグループはつい先日、7000億円を超える四半期赤字を計上するなど、岐路に立たされている。今回のLINEとヤフーの統合を決めた巨大インターネット企業の光と影を深掘りしていく。さらに、国産GAFA誕生の衝撃、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先詳細データ、幹部インタビュー、グループに潜むリスクを徹底検証していく。