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ヤフー親会社、打倒アマゾン・楽天に“次の一手” ヤマトと組んでEC事業を強化 川邊社長「ナンバーワンになる」
「eコマース市場でナンバーワンになりたい。当社は万年3位といわれてきたが、2位、1位の背中が近づいてきた」――。ヤフーの親会社であるZホールディングス(HD)の川邊健太郎社長は、3月24日に開いた記者発表会でこう強調した。
ZHDは同日、ヤマトHDと業務提携に向けた基本合意書を締結。ヤフーが運営するECサイト「Yahoo!ショッピング」「PayPayモール」を対象に、従来は出店者が担っていた受注から出荷までの業務をヤマトHDが代行するサービスを6月30日に始めるという。
出店者の負担を軽減して出品・販売のサイクルを加速し、取扱高を拡大することで、先行するアマゾンジャパンや楽天に対する競争力を高める狙いだ。
ヤマトHDとの協業に加えて、両ECサイトから実店舗に送客するサービスを準備するなど、ZHD単独で出店者を支援する取り組みも始める。
ヤマトと組んで2種のサービスを展開
ヤマトHDと組んで提供する出店者向けのサービスは、「フルフィルメントサービス」と「ピック&デリバリーサービス」の2種類。
フルフィルメントサービスでは、商品の保管、受注、ピッキング、梱包、出荷、配送といった、商品の仕入れや販売を除くほぼ全工程をヤマトグループが代行する。ピック&デリバリーサービスでは、発送する商品の準備は出店者側が行うが、ピッキング、梱包、出荷、配送はヤマトグループが担う。
これまでYahoo!ショッピングとPayPayモールでは、出店者が自社の倉庫で商品を保管したり、運輸業者に個別に配送を依頼したりする必要があった。そのため、受注から発送までに工数がかかる場合があり、翌日配送などのサービス面でアマゾンジャパンや楽天に後れを取っていたという。
今回の提携によってこの課題を解消し、消費者への迅速な配送を実現しつつ、出店者の業務効率化やコスト削減を支援することで、ECサービスの強化を図る。将来は、サービス提供によって得たデータを分析し、需要を予測することで、消費が集中しそうなエリアの物流拠点に在庫を事前に移動する施策なども行う。
ヤマトHDの長尾裕社長は「両社のデータを活用して、出店者の効率的な経営を支援し、持続可能なECエコシステムを構築する」と力を込めた。料金体系は現時点では非公開だが、「業務量に応じて配送料を変動制にする」(長尾社長)としている。
ZHDは今後、両サービスを契約した出店者の商品を購入したユーザーに、送料相当額の「PayPayボーナスライト」を付与し、送料を実質的に無料とするキャンペーンも行う(12月で終了予定)。キャンペーンに要する費用は、出店者側では負担しない。恒常的に送料を無料化する予定はないという。
送料無料化を巡っては、競合する楽天が出店者への費用負担と一律導入を課して批判を浴びたこともあり(現在は条件を緩和)、ZHDは出店者との関係維持に配慮したとみられる。
ネットから実店舗への送客も
ヤマトHDとの協業だけでなく、自社グループで出店者を支援する取り組みも進める。
具体的には、今春からPayPayモールの商品ページ上に、EC向けの在庫数に加えて実店舗での在庫数を表示する。実店舗に在庫がある場合は、ユーザーがPayPayモール上で決済し、実店舗の専用ボックスで商品を受け取れる仕組みにする。これにより、出店者はEC向けの在庫が売り切れた場合の機会損失を抑えられ、ユーザーは配達を待つ手間を解消できるという。
すでに「ヤマダ電機 PayPayモール店」など一部のストアでは、実店舗の在庫の有無を表示するサービスを開始済み。今後は傘下のZOZOが運営する「ZOZOTOWN PayPayモール店」に展開し、さまざまなアパレルブランドの在庫情報を提供するという。実店舗での受け取りサービスの開始は秋ごろの予定。
ZHDは、ECサイトから実店舗に送客する施策を「X(クロス)ショッピング」と名付け、積極的に進める方針だ。ZHDの小澤隆生専務は「実店舗に商品を受け取りに来たユーザーが“ついで買い”をする可能性もある」とし、「(販売形態を)インターネットに閉じるのではなく、垣根をなくしたい」と強調した。
自社のECシステムを開放
これに加え、ZHDはPayPayモールやYahoo!ショッピングで使用している検索・決済システムを「XS(クロスショッピング)エンジン」と命名し、外部のEC事業者に提供する施策も始める。現時点では開始時期などの詳細は非公開だが、PayPayによる決済システム、機械学習を活用したレコメンド機能、前述した実店舗の在庫表示機能も外部向けに開放するという。
まずは、傘下のアスクルのECサイト「LOHACO」にXSエンジンを提供し、仕組みの改善を図る予定。外部向けの料金体系は「SIerへの発注とは比べものにならないほど安くしたい」(小澤専務)としている。
ZHDの川邊社長によると、今回発表した施策は「eコマース革命の第2弾」。旧ヤフーが2013年に出店時の初期費用を無料化し、取扱高を大きく伸ばしたことに次ぐ、大規模なテコ入れだという。
ZHDは以前から、決済・コマース事業に注力して国内外のプラットフォーマーに対抗する方針を掲げており、“第2弾”によって実現に近づける構えだ。同社長は「欲しいモノが欲しい時に手に入る世界を目指す」と意気込んだ。