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KDDI高橋社長が語る「スマートマネー構想」–au IDのキャリアフリー化も
KDDIは2月12日、スマートフォンを主体とする新たな金融戦略「スマートマネー構想」を打ち出すとともに、金融持ち株会社「auフィナンシャルホールディングス」を設立することを発表。傘下にある決済・金融関連企業をauブランドに統合する方針も明らかにした。
同日の記者発表会で、KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏はスマートマネー構想の詳細を語った。高橋氏はまず「スマホセントリック」というキーワードを挙げ、「我々はミャンマーでも事業をやっているが、出張で見に行くとまっすぐスマホ金融が入っている」と話す。その上で、日本がキャッシュレス社会に向かう上ではスマートフォンを主体とした金融サービスが重要になるとした。
KDDIはこれまでスマートフォンを活用した金融サービスの提供に力を入れてきており、2008年に三菱UFJ銀行と「じぶん銀行」を設立して以降、「au WALLET」などの決済サービスや、保険、ローン、iDeCoなどさまざまなサービスを提供している。中でもau WALLETに関しては、2014年にサービスを提供して以降2000万超の会員数を獲得し、なおかつ「控えめに言って1000億円超の残高がある」(高橋氏)など、大きな決済基盤へと成長しているという。
高橋氏はキャッシュレス決済を利用する上で「財布の中にいくらお金が貯まっているかが大事」と説明。au WALLETに1000億円超ものチャージ残高がすでに存在することが、他社のサービスと比べた優位性となることから、それをベースとして利用を促進するための方策を検討してきたという。そこで新たに打ち出されたのがスマートマネー構想である。
これはau WALLETを基盤としながら、スマートフォン上での金融サービスを強化していくというもの。その取り組みの1つとして展開されるのが、4月にサービスを開始するQRコード決済の「au PAY」であり、au PAYによってau WALLETによる決済を中小店舗に広げたいとしている。
さらに高橋氏はau PAYだけでなく、アップルの「Apple Pay」による非接触決済も加えた、スマートフォンでの決済利用可能場所を「2019年度早々に、レジベースではなく、スポットベースで100万か所以上」にしていきたいと話す。そのための方策として、2018年に提携した楽天の「楽天ペイ」との連携のほか、KDDIが出資しているカカクコムの「食べログ」と連携した加盟店開拓も進めていくとした。
一方で、PayPayのように多額の資金を費やした大規模キャンペーンの実施については、au WALLETですでに顧客基盤を持つことから「我々からすると想像していない」と高橋氏は話す。だが一方で、QRコード決済を巡る競争が急速に激化していることから「4月頃には考えたい」と、何らかの対応をしていく可能性も示唆した。
au WALLETアプリを金融サービスの入り口に
高橋氏は「顧客とのエンゲージメントをできるだけ広げたい」と話し、スマートフォン金融を決済だけでなく、預金や送金、投資、ローン、保険などにまで広げ、顧客の生涯をサポートする存在にしていきたいとの考えを示す。そこで高橋氏が披露したのが、au WALLETのアプリを中心として金融サービスを提供するというプランである。
これまでKDDIはユーザー接点となるさまざまなスマートフォンアプリを提供してきたが、これからはau WALLETアプリを全ての金融サービスの入り口にして金融事業を拡大していくとのこと。アプリ上からau WALLETの残高やポイントを確認できるなど従来の機能に加え、「支払い」ボタンを押してau PAYでの決済が、「送金・払出」ボタンを押してじぶん銀行を活用した送金が利用できるなど、全ての金融サービスがこのアプリ上から利用できるようになるとのことだ。
KDDIでは今後もスマートフォンから利用できる金融サービスを拡大していく方針で、4月には「ポイント運用」と「少額ローン」のサービスを、2019年度内には「おつり投資」と「出金・送金機能の拡充」を実現したいとしている。「これからはライフデザインと通信を組み合わせ、顧客との付き合いを長く、強くするというのが戦略の基本になる。そのライフデザインビジネスの中心が金融だ」と高橋氏はその狙いを話した。
カブドットコム証券にTOB、傘下金融企業はauブランドに
高橋氏はさらに、スマートマネー構想の実現に向けた取り組みとして「これまで展開してきた会社を整理整頓しようと思う」と話し、4月に中間金融持ち株会社の「auフィナンシャルホールディングス」を設立すると発表。じぶん銀行や「ウェブマネー」「KDDIアセットマネジメント」など、KDDIの金融関連企業をその傘下に移管するとした。
さらに高橋氏は、三菱UFJ銀行と合弁で展開しているじぶん銀行の議決権比率を63.78%に高めて子会社化すること、そして三菱UFJ証券ホールディングスの連結子会社であるカブドットコム証券の株式をTOBで49%を取得し、関連会社化することを明らかにした。カブドットコム証券はすでにKDDIと提携関係にあり、1月にはじぶん銀行から不足残高を自動入金する「オートスイープ」などを提供しているが、今回の株式買収によってより深い関係を構築していきたいとしている。
その上で、「ここまで整備したので、会社の名前も統一したら分かりやすくなる」と高橋氏は話し、auフィナンシャルホールディングスとなる傘下の5社と、au損害保険、そしてカブドットコム証券の7社の社名に「au」を付けてブランドを統一することも発表。これによってじぶん銀行は「auじぶん銀行」、カブドットコム証券は「auカブコム証券」となるほか、ウェブマネーは名称自体が大きく変化し「au PAY」となる。
また高橋氏は、KDDIが展開しているベンチャー企業への投資ファンド「KDDIオープンイノベーションファンド3号」についても、auフィナンシャルホールディングスを活用していく方針を示す。同ファンドでは「FinTechの分野が弱かった」(高橋氏)ことから、auフィナンシャルホールディングスを活用することにより、今後FinTech分野のベンチャーへの投資を推し進めていきたいとのことだ。
高橋氏は、KDDIが通信事業による顧客基盤を持つこと、OTTサービスと異なり毎月の通信料でau WALLETのポイントが自動的に貯まる仕組みを持つこと、そして携帯電話大手3社の中で、金融のサービスが最も充実していることが、KDDIの金融事業の大きな強みになるとしている。その上でauフィナンシャルホールディングスを中心としたスマートフォン金融グループの拡大により、「2021年くらいに、決済・金融取扱高6兆円を目指す」と、具体的な目標を掲げ今後の事業展開に意欲を示した。
夏にはauのIDやサービスをキャリアフリー化
高橋氏はもう1つ、これまでauの契約者だけに閉じていた、auのIDや決済サービス、ポイントなどのキャリアフリー化を今回の発表会で明らかにした。キャリアフリー化は2019年夏に実施する方針で、それにともないau WALLETによる決済やポイントなどもキャリアフリーで利用できるようになるとのことだ。
キャリアフリー化に至った理由について、高橋氏は「金融サービスやポイントを提供する上で、加盟店と話していると『(対象が)auユーザーだけなの?』という話になる」と説明。金融サービスを拡大する上で、au以外の顧客開拓が欠かせなくなったとの認識を示した。ただし一方で、「キャリアフリーにしたらユーザーがつく訳ではない」とも話しており、従来通り垂直統合でauの顧客体験価値を高める取り組みは引き続き実施していくとした。